二人に増えた大切な幼馴染たちが姿を消してからしばらく経つ。
 混乱の続く世界の中で、キムラスカの王族として、かの事件の中枢に居た者として、日々は多忙を極めていた。
 それを有難いと思ってしまう自分は、まだ至らぬところが多くあるのだろう。少しでも心に余裕ができると、心身の疲れも相成って取り留めのないことを考えてしまう。
 こんなことではいけない、と思う。今自分の背には、たくさんの命――その責任――が背負われているのだから。
 そこまで考えて、ナタリアは僅かに唇を歪めた。
(そもそも――国民を謀り実の父をこの手で殺め……私はひどく罪深い人間ですのに。……けれど)
 沈みそうな思考を振り払うように、まっすぐ顔を上げる。
(約束を、したのです。……今はもう、無効になってしまいましたけれど)
 窓の向こうに広がるは、自分を慕う人々の住まう街。
 約束をした相手――この世でもっとも気高く尊い、そして何よりも強いひとが、初めて自分を連れ出してくれた場所。
(ですがその約束があればこそ、私はこうして生きているのです)
 昇り始めた太陽に照らされる街並みを眺めやって、ナタリアはふるりと首を振った。
(いえ、生きなくてはならないのですわ)
 彼がここに居て、この世界で共に生きたということ。この約束は、そのことの何よりの証拠になる。
 だから自分は、既に無効となったこの約束を、一人で勝手に守り通そうと決めた。
 それは――無効になったとはいえ――「約束を破る」という行為が不義理であるとか、そんな理由ではなく。
 自分が、彼の意志と共に在りたい、ただそれだけで。
(……こんな利己的な理由だと知ったら、軽蔑されてしまうでしょうか)
 けれど、もしそうだとしても、自分は一向に構わない。ナタリアは表情を緩めた。
 この国を――ひいては世界の平和を思う気持ちは本物なのだから。
 そしてそれ以上に、彼と自分がそう願ったという事実こそを、大事にしたかった。

(……ええ、あなたが残り滓だというのなら、私も王女の残り滓ですわ)

 王女だと思っていた自分は、王家の血を引いていなかった。
 聖なる焔とされていた彼は、多くの運命を覆そうと身代わりを立て、自らを燃え滓とした。
(きっとあなたは、そんなことはないと言うのでしょうけれど)
 互いに「本物」ではなくなってしまった。
 だがそれでも、意志だけは変わらずそこにあった。いつかの日の約束と共に。
(違わないのですわ。私にとって、あなたは変わってなどいなかったように)
 本当の王女ではないと知らされてもなお、自分の胸にある、キムラスカ王女としての意志や思いは変わることがなかった。
 なのに、己を取り巻く環境だけが強制的に変わっていく。本物ではなく偽者であれと強要する。
 ショックを受ける暇も許されず、立て続けに追い立てられ、追い詰められて。
 もう、自分は今までの自分ではいられないのだと認めざるを得なかった、そのときだった。
(あなたは……私が気に病んでいたことを、どうでもいいと撥ね付けて。私が私であればいい、そう、認めてくださったではありませんか)
 己を「ルーク」ではないと主張する彼も、ナタリアにとっては何も変わりはしなかった。
 呼び名が「アッシュ」に変わったところで、至らない未熟な自分を助けてくれたのは、いつだって彼だった。
 共に生きようと約束をした彼でしかなかった。
 何より彼は約束を覚えていてくれた。
 そればかりか、十年以上の時を置いてなお、彼は約束を遂げようとしていてくれた。自分と同じように。
 だから、自分と彼は同じ――似たもの同士なのだ。些か不謹慎かもしれなかったが、ナタリアはそれを嬉しく思っていた。

(あなたとの繋がりが、もうひとつ増えた気がしたのです)

 最後の戦いで消えていったそのひとの、遺品と呼べるものは一つとして残らなかった。
 けれど、とナタリアはそっと胸に手を重ねる。
 閉じた瞳の奥に見えるのは、燃えるような赤毛。
 厳しい表情でありながら、眼差しは優しい――そのひとの形。
(ここに、居ますわ。死ぬまで一緒だと、そう約束しましたもの)
 どんなに辛く、どんなに苦しくとも、自分の中には彼が――共に誓った意志が在る。
(……あなたなら私に、こう言ってくださるでしょう?)
 何があろうと、二人で乗り越えていこう、と。


 辛くなったら胸に手を当てて目を閉じる、それだけでいい。
 たったそれだけで、あのひとをまざまざと感じることができるのだから。

 身一つで何もかもに立ち向かっていくキムラスカの王女には、そんな事情があった。
 その何よりも強く気高い心根に、――かのユリアの預言の一節にあったように――キムラスカ・ランバルディアの繁栄は約束されたようなものだと、誰もが希望を抱かずにはいられない。


 ナタリアは閉じていた目を開いた。

 その先に見据えるのは、幼い頃、二人で約束した未来。
 預言ではない、けれど確かに約束された――まだ見ぬ未来。

 その場所へ向かうべく、今日もナタリアは足を踏み出した。



 ――約束は一度たりとも、違えられることはないのだ。






 いやそのですね、真のツンデレは一人で勝手に思いこんで決めつけて少々自己満足もありつつ逝ってしまったっぽいので、ばーかあーほお前ちゃんと報われてんだからなちくしょうバファリ○だって5割の優しさで留めてるっつーのに6割っておまえアホか! っつーかあほのこめーー!!(がらっしゃん)
 とかまあそんな感じで(何)

 色々わかりにくくてすいません。
 むしろ自己満足は俺の方だった……ごめん、ティア……!(知り合いとの会話でぷち流行中の謝罪時のフレーズ)(どうぞ「ばか……!」と続けてやってください)

(2006/02/12 up)(※日記より加筆修正)

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