「――なもんで、もうやんなっちゃう。ほんっとアニスちゃんの苦労は絶えないって感じぃ」
 両の側頭部で結わえた髪をぴょこぴょこ揺らしながら、ややオーバーアクション気味な身振り手振りを付け加えた彼女の話――というか、あからさまな愚痴――は、もう五分以上も続いていた。
 そんな彼女を宥めるように、首を傾げたり頷いてみたりと忙しない聞き手に回っているのは、彼女とそう変わらない年の少年だった。
「そうなんだ。アニス、お疲れさま」
「ほーんとお疲れだよぅ……でもまあ、こんなことでヘコたれるアニスちゃんじゃあないけどねっ」
 アニスは拳を握り締め、精力的な様子をアピールする。
 疲れを滲ませる顔をにこにこと歪ませて――しかしその脳裏に浮かぶのは、今日あった会議の情景だ。

『レプリカを導師として擁していたとは、……つまり、「被験体とレプリカは全く別の存在」というあなた方の主張からすれば、教団は堂々と偽者を立てていたということになりますな』
『繁栄へと導くはずの教団が、まず世界を――我々を欺いていたと。そんな方々の思惑に従うというのは、はたして、いかがなものですかなぁ』
『未だにその導師を崇める者たちの多いこと多いこと……先ず故・導師イオンを監査にかけるべきでは?』

 ユリアの預言を廃するべく、世界をレプリカに挿げ替えようとした一人の男がいた。
 その思惑を阻止するため――彼女とその仲間は戦いを続け――、一人のレプリカと、その被験体が姿を消した。

 そうして残ったのは預言の消えた世界と、男の願望の残滓たる大勢のレプリカだった。
 レプリカは見た目こそ被験体と同じであるが、中身は生まれたての赤子と大差がない。しかも件の男は己の計画のため、最低限の――現在の社会的一般常識等を割愛した――知識のみをレプリカに与えていた。
 そこに「個」を確立させる人格などあろうはずもない。当然、社会の中で生きていた被験体と同じであるはずもない。
 悪く言ってしまえば、「個」が存在しないレプリカたちは、未発達で未成熟な子供の集団でしかなかったのである。

 そんな爆発的に増えた子供人口に、世界は大いに混乱した。
 得体の知れない子供たちは、己の身を守る術も知らず、わけのわからぬまま、ただ恐れられ拒絶され虐げられた。
 彼らに手を差し伸べたのは、キムラスカ王国、マルクト王国、そしてローレライ教団総本山のダアト――世界を構成する三代勢力が手を結び、混沌の最中にあった世界の統治へと乗り出したのである。
 アニスは先だっての事件の渦中にいたこともあり、ローレライ教団の代表の一人として、その統治事業に日々奔走している。本日の会議もそれに関するものだ。
 会議の主な参加者たち――レプリカの受け入れ先となった各地域の代表は、己が不満を余すことなく主張していった。
 彼らの熱意は会議が進むにつれ歪んだ方向へとヒートアップしていき、先述の発言へと相成ったわけである。

 今となって思えば、よくも自制できたものだと、アニスは自分に感嘆していた。
 公の場で元・主人を貶されたのだ。今はもうここには居ない、故人となってしまった主を。
 背中ではなく脇に控えさせていた(傍から見るにただ置いてあっただけだが)ぬいぐるみを巨大化させ、不届きな輩にその罪の重さを身を持って知らせてやることは、いくらでもできた。
 けれどそれをしなかったのは、彼女が固く誓った決意のためだ。今は亡き主人と、僅かな自我を持ち始めていたレプリカたちとの約束のために。
 レプリカたちが安心して暮らせるように取り計らう、と。
 自分の命を捧げてまで願った彼らの、その思いを無下にすることなどどうしてできようか。

(不満があるのはわかるけど、でもだからって何でイオン様を引き合いに出してくるわけ?! 全っ然関係ないじゃない!! そもそも故人を尊ぶ気持ちもない輩にレプリカたちを任せるなんてのがまず間違って――)

「アニス」
「――ふぇっ?」
 腹の中を煮え繰り返らせていたアニスは、静かに自分を呼ぶ声に我に返った。
「……何か、あった?」
「なぁーんにも。ぜぇーんぜん。ていうか、何かって何? フローリアン」
 何事もなかったかのように彼、フローリアンに笑いかけるアニス。フローリアンは、被験体の代理として動いていた七体目のレプリカに比べ、どこか表情などが乏しい。
 その少ない表情の中で、彼は小さく眉根を寄せるという動作を見せた。ほんの一瞬であったが。
「僕は」
 じっとアニスを見据えたフローリアンは、一つの躊躇もなく、言葉を紡ぐ。
「アニスが、そんなに強くないことを知ってる」
 さっきまで忙しなく揺れたり腕を振り回したりしていたアニスの動きがぴたりと止まった。
 大きく見開かれた目はまばたきを忘れ、ただ目の前の少年を凝視する。
「だから、そんな風に言うのはよくな」
「なぁーに言ってんの? フローリアン」
 遮ってきたその声がわずかに震えていることに気付いて、フローリアンは目を瞬かせた。
 アニスはいつもと同じような表情でそこにいた。
 いたけれど――開きかけた口がわなないて、言おうとした何かを飲み込んでいる。一度だけではなく、何度も。
「アニス? どうかし……」
「どうもしない!」
 強く、拒絶の意志をこめた、二度目の遮る声。
 思わず身を竦ませたフローリアンは、覗き込もうと前傾気味にしていた姿勢を、慌てて後ろに引いた。
「あの、アニス、僕は」
「……私の、何を知ってるっていうの! 知ったような口きかないで!」
「ご、ごめ――」
 彼の口から謝罪がこぼれ落ちる前に、アニスはその場から駆け出していた。



*****



 風のない夜だというのに、教会中庭に植えられた木が大きく揺れている。
 葉が擦れあってざわめく音以外に、がすっ、がすっ、と規則的な、鈍い音が混じっている。
「……っ、ばかぁっ……!」
 喉の奥から搾り出したような掠れ声とともに、アニス渾身の一撃がその幹に放たれた。
 ひときわ大きな揺れが収まり、幾枚かの葉が地面に落ちきって、アニスはようやく攻撃態勢を解いた。
 つんとしてきた鼻をすすりあげる。
(やめてよ)
 瞼の奥の熱を無視しようと、なるべく目を閉じないよう心がける。
(イオン様と同じ顔で、イオン様と同じ声で、そんなこと言わないで)
 握りこんだ爪が食い込むほど、両拳を固くする。
(せっかく、イオン様と、フローリアンは違う人なんだって、理解してたのに……!)
 沸き起こる何かを霧散させるように、アニスは拳を叩きつける。
 じんじんとした痛みが皮膚感覚を麻痺させたが、感情や心までは麻痺させてくれなかった。
「私のばか……っ」
 アニスの瞳から、とうとう涙が滲み始めた。それが一粒流れるたびに、アニスの体から少しずつ力が奪われていく。
 やがてアニスは膝を折ってへたりこんだ。

 彼女の元主人はレプリカである。
 生まれたときから自身がレプリカだと知っていた彼は、自分が誰かの代わりであることが嫌だと、そう言った。
 立場、もしくはその役職上、彼女はそれを手放しで肯定することはできかねた。
 例え彼がレプリカであっても、彼より先に亡くなった被験体の――彼に与えられた代理役――「導師イオン」という存在は、この世界になくてはならないものであったから。
 それに何より、彼女にとっての「導師イオン」とは、被験体当人ではなくレプリカの彼だった。代理も何もなく、ただそのものだったのだ。

(イオン様は、私の知ってるイオン様は、もういなくて……だから、同じ人のわけが、なくて……)

 レプリカ問題の一番の難点はここにある。
 いなくなってしまった被験体とレプリカは、見た目が全く同じということ。外見だけならそのものなのである。
 人間の認識の大半は、視覚情報を判断材料とする。そして、その認識は感情にも直結してしまう。
 見た目が同じでも中身は違う――そう割り切れる者は、世界の中では少数派だった。
 多くの人々は、レプリカという存在に己の感傷や思い出を踏みにじられたと逆上し、拒絶し、否定した。

 「レプリカは被験体と同じものではない」、その認識は間違ってはいない。それは彼女の元主が望んだものと同じことだ。
 その認識を、肯定して受け入れるか、否定して拒絶するか――ただそれだけの、しかし決定的な違いがあるだけで。

 アニスは元主の望むまま、その意志を尊重しようと、同じくレプリカであるフローリアンを一個人として扱ってきた。
 少なくともそのつもりでいたし、そう努力してきた。
 フローリアンに元主を重ねることは、元主にとっても、フローリアンにとっても失礼なことだと、己に言い聞かせて。
 実際アニスは、フローリアンと接していくうち、彼と元主は別の人間なのだと実感するようになっていた。
 言動、考え方、仕草――そのどれもが、微妙に違っている。全く同じ所など一つとしてなかった。
 元主ならこうするだろう、こう言うだろうというアニスの経験則を、フローリアンはあっさりと覆していった。(実も蓋もない表現をするならば、成長過程が違うのだから当然なのであるが。)

 だからまさか、あんな言葉を、彼から受け取る日が来るとは予想もしていなかったのだ。

(フローリアンは……私を心配してくれた、だけなのに……)

 一瞬でも、それを元主から言われたのかと、錯覚さえしなければ。
 そんなことを言ってくれるのは、自分をわかってくれるかもしれないのは、元主でしかありえないと、思い込んでさえいなければ。

「ごめん……ごめんね、フローリアン……イオン様」

 溢れつづける涙で喉をつまらせながら、アニスは二人への謝罪を何度も何度も繰り返した。



*****



 アニスは空を見上げた。正確には、空へと伸びている教会の突端を。
 朝起きて腫れぼったくなっていた目元を必死で誤魔化して(おかげでいつもより二十分も仕度にかかった)、今日も彼女は戦場へと赴こうとしている。
 午前はレプリカ問題に関する各方面からの意見陳述のまとめ、午後はそれを元にした会議がここダアトで行われる。
 アニスには一つの決意がある。
 女性初の教団導師となり――元主の意思のもと――世界を導くのだ。
 それを現実にするまでは、後ろを振り返ったり立ち止まったり、まして泣き言など言っていられるわけがない。昨夜泣き疲れて眠る前、アニスは改めてそう思った。
 だからアニスは、昨日までと同じように、背筋を伸ばして前を向いて、数々の強敵の待ち受ける己が戦場へと、長い長い階段を登っていく。
 そうして登りきった先には、昨日とは違う光景があった。
 この時間帯に、こんな場所にいるはずのない人物が、けれど何の違和感もなくそこに立っている。
「アニス」
 良く言えば落ち着き払っている、悪く言えば抑揚のない、そんな声だった。
 いつもと変わりのない、他の誰でもない彼の声で、彼女は名前を呼ばれたのだ。
「フローリアン……」
 目の前まで歩いてきた彼はおはようと軽く頭を下げる。アニスも遅れておはよう、と言葉だけを返した。
「どうしたの、こんな朝早くから」
「ここで待ってれば、会えると思って。それと、今日は何時に来るのか聞いてなかったから」
 もし今日、視察などでダアトを離れていたらどうなったのだろう。
 考えるまでもなく答えは出た。当然、夜になるまでここで待っていたに違いない。門番に部屋に戻りなさいと言われても多分、待とうとしただろう。
 妙に頑固なところだけは似ているのだ、この二人は――そういえば、あの公爵家のお坊っちゃん達もそうだったっけ。
 アニスは泣きそうな笑顔を浮かべた。今何かを口にしたら嗚咽になりそうだった。
「ごめんなさい、アニス」
 先ほどの挨拶とは違い、フローリアンは腰を曲げて頭を垂れた。
 アニスの喉が復活した頃にようやく、その姿勢を戻す。
「なんで……なんで、フローリアンが謝るの?」
「僕が生意気なことを言って、アニスを……アニスの尊厳とかそういうのを、傷つけたから。アニスの言う通り、僕はまだ何も、世界のことすらよく知らないし、わかってもいない」
 もう一度深く頭を下げようとした彼を、アニスは両肩を掴んで止めた。力任せに押し返しながらぶんぶんと首を横に振る。
「違うよ、悪いのは私の方! だいたいまず先に謝らなきゃいけないのも私なんだから、とにかくフローリアンは全然悪くない!」
「アニス……」
 言い切ったアニスはさり気なく俯くと、歯を食いしばり、せり上がってきた色々を押し留める。
 それから一つ息を吸って――きっと顔を上げ、困惑気味のフローリアンを見つめた。
 元主ではない、その人の顔。
(そうだよ……こんなにも違う。だってイオン様は、謝るときはいつも、「すみません」だった。いつも、私だけじゃなく誰にでも、遠慮するような言い方をしてた)
 目の前の彼は違った。
 どこかたどたどしい口調と、子供っぽい言葉遣い。幾分緩和されてきたものの、まだ人見知りも激しい。
 そんな彼が半ば無遠慮に、アニスへ進言してきたのだ――無理はするな、と。
 アニスはそれが、いつも自分が元主へ繰り返していた言葉でもあったのだと、今更になって気が付いた。
 彼はただ、心底、自分を心配してくれていた。
 ほんとうに、純粋に、それだけであったのに。
「ごめんね、フローリアン。私、酷いこと言ったね。本当に、ごめんなさい……」
「アニス……」
「それから、……心配してくれて、ありがとう。嬉しかった」
 アニスはにこりと笑って、己の素直な気持ちを伝える。
 元主が、心配する自分へ返してくれたように――お礼と。
 元主が、嘘をつき続けている自分へ負担にならないように――おそらくは、言わないでくれていた、感謝の念とを。
「アニス、許してくれるの?」
「許すも何も、許してもらうのは私の方だよ」
「じゃあ僕も。許すことなんか、何もない」
 フローリアンの顔がぱっとほころぶ。
 これも、元主にはあまり見られなかった仕草だ――心に従うまま、感情を表出させる、などと。
 そう思って、アニスはさらに笑みを強くした。必死で留め置いた涙が出てこないように。
「ねえフローリアン、また愚痴りに行ってもいい? たぶん、今日の夜にでも」
「もちろんだよ」
 いつでも来てくれていいよ。そう付け加える彼からは、――同じく、元主が持っていたものとは種類の違う――力強さのようなものが感じ取れた。
「あ」
 ふいに、フローリアンが驚いたような顔をした。
 向き合う自分の後方を気にしているのだと気付いて、アニスは彼の肩から手を外し後ろを振り向く。
「って、中将ぉ?」
「おはようございます、アニス。フローリアン」
 かつん、と階段を登り終えた長身の男は、腰の後ろで組んでいた手を解いて片手をあげた。フローリアンがぺこりとお辞儀をする。
「どーしたんですか中将まで。こんな朝っぱらから」
「いえ、ちょっと近くまで来たものですから。軽く物資調達と食事のついでに様子をと」
 アニスは後方で直立している門番にちらりと目をやって、気持ち小声で、半眼になりつつ囁いた。
「新たな問題がお土産です、とか言わないですよね」
「そうだとしたらもっとわかりやすく来るつもりです」
「うっわ来てほしくなーい」
「ははは、そう遠慮しなくても」
「ていうか面倒事はもうウチのとこだけで間に合ってますんで、結構です」
「冷たいですねぇ」
「アニスちゃんは今あちらこちらから引っ張りだこの身なので、中将一人に優し〜くしてるわけにはいかないんです。てへ、人気者はつらいですねっ。……ってやばっ、早く資料まとめないとぉ!」
 くるくると表情を変えて喋り続けていたアニスは、最後に軽く敬礼の姿勢を取った。
「そんなわけなので中将、オラクル騎士団所属、元導師守護役アニス=タトリン奏長、本日も張り切って行って参ります!」
「ええ、存分に頑張ってきてください」
 失礼しますと告げ、フローリアンにまた後でねと笑いかけるアニスに、マルクトの軍服を纏った男はもう一度声をかけた。
「何ですか、中将?」
 アニスは駆け出そうとした足を止めると、揺るぎない意志を灯した瞳で、真っ直ぐ男を見上げた。
 眼鏡越しにその視線を受け止めた男は、無意識のうちにふっと口元を緩めていた。
「……元気そうですね、アニス」
「あったりまえですよぅ。アニスちゃんから元気を取ったら何が残るっていうんです? この美貌しか残らないじゃないですかぁ」
 くねくねとお色気ポーズ(らしきもの)を取ってから再度敬礼すると、アニスは今度こそ駆け出した。
 二人の門番に元気良く挨拶をしつつ、重たい教会の扉を押し開けて、魔窟とも言うべき戦地へと飛び込んでいく。
 見えなくなった背中(実際見えていたのはぬいぐるみのトクナガだけだったが)から視線を逸らすと、男は小さく嘆息した。
「……やれやれ。取り越し苦労といったところですか」
「あの」
 遠慮がちにかけられた声に、男は首だけを回した。
 記憶の中のよく似た人物とはどこかが違う。アニスと同じく、男は自分の感覚をそのように判断した。
「どうしました、フローリアン」
「中将は、アニスを心配して来てくれたんだよね?」
「おや、そう見えましたか?」
 男は内心の驚き――それはひどく微細なものではあったが――を何一つ表情に出すことなく、フローリアンに向き直った。
「理由はわからないけど、そんな気がした。違った?」
「さあ、どうでしょう」
「じゃあそうなんだね」
 勝手に自己完結しているフローリアンを、男はじっと観察している。
 多忙の合間を縫って再開した研究のせいか、悪気といったものは全くないのにどうしても「そういう」目で見てしまうなと、男は心中で苦笑した。
「それじゃお礼を言わなきゃ。ありがとうございます、中将」
 慣れない丁寧語を使って深々と礼をする少年に、男は軽い驚きを表出させた。
 ただフローリアンが顔を上げたときには消え去っていたし、二名の門番からは位置が遠すぎて判別できなかったゆえ、それを目撃した者は一人としていなかったが。
「……何故、お礼なのです?」
「中将に会うと、アニスは元気になるみたいだから。笑顔をたくさん見せてくれる」
 フローリアンは胸に手を当てると、何かを思い出すように続けた。
「僕はアニスが笑うと嬉しい。僕だけじゃなくて、アニスの笑顔は皆を明るくして、勇気付けてくれるから」
 だからお礼だよ。そう結んだフローリアンの笑顔に、男は、記憶の中のそれと目の前のそれが重なりかける、そんな錯覚を引き起こされた。
 それほどにそっくりで、けれど七体目であったというレプリカはもういない。
 同じであって、しかし同じではない。
 似て非なるもの――それがレプリカなのだ。
(やはり、実験体から学ぶべきことは多い、ということですか)
 レプリカ製造技術、フォミクリーの理論提唱者たるその男は、不謹慎にもそんなことを思った。
「中将」
「はい、何でしょう」
「これからも、アニスのことを、よろしくおねがいします」
 男はその赤く染まった目を細めると、三度頭を下げるフローリアンを眺めやる。
(アニスも、身近な良き理解者を得たものです)
「ええ。こちらこそ、よろしくお願いしますよ。フローリアン」
「うん! あとそれから、僕が言ったってこと、内緒にしておいて。アニスに知られたら、また……アニスの尊厳とかそういうの、傷つけちゃいそうだから」
「おや、そうでしょうか。……まあ、あなたが言うのならそのようにしましょう」
「ありがとう、中将!」
 緩やかな安堵にほど近い、じんわりとした何か。男は胸奥に沸き起こった奇妙な感覚を、悪いものではないと判断した。
 そうして、老婆心ながら一つだけ、二人だけの秘密の契約に条項を加えることにする。
「アニスはあれで頑固で一途で純粋な性分ですから、強がって無理をするきらいがあります。もし無理をしていると思ったら、あなたが止めてあげてください」
 男の提案にフローリアンは、ああ、と得心したような表情を浮かべる。そして、
「それなら――」
 朗らかな笑みと共に、言った。
「昨日の夜、やったばかりだよ」






 ろくすっぽサブイベント消化しないままクリアして、何だかんだとキャラ雑感とかぐるぐるさせていたらポロっと湧き出てきたネタだったのですが。
 フローリアン関連のサブイベを見てたら絶対こんな妄想なんかせんかったのになあ(笑)
 ぶっちゃけた話、書き終わって一度日記に放置してからフローリアンのサブイベの存在を知って見に行きましたよ……(後の祭り)(慌てて修正してこっちに持ってきた)

 ええと、やりたかったのは「アニスたんと手酷い世界と心強い仲間たち」みたいな。
 別にフローリアン×アニスでもなくジェイド×アニスでもなく、ただ単にED後のアニスたんはこんな感じで頑張ってて、それをフローリアンと子安がひっそりとバックアップに入ってたりするといいなあとか。
 あとジェイドはアッシュよろしくストーカーちっくにアニスたんを気にかけていたわけではなく、本当に偶々前日の会議でこんなことがありましたとマルクト代表の人から話を聞いて、本当に通り道だからってことで寄ってみたりするといいなあとか。
 ひたすらに夢見がちですいません。


 最後に、サブイベではかなり子供子供していたフローリアンも、数年経ったら成長するよと言ってくれた知り合いの萌えのすごいひとたち本当にありがとう。
 あとこんな妄想に広がるきっかけになった南方の萌えの鬼すごいひとに多大なる感謝を。本当ありがとうございました!

(2006/01/06 up)

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