「失礼しましたー」
 がらぴしゃんと魔境の扉を閉めて平穏な日常世界に舞い戻ったアタシは、やれやれと息を吐き出してから歩き出す。
 時は放課後逢魔時。場所は草堂学園職員室前廊下。日直という雑用押し付けられ係を終えて、アタシの気分はこの上なく晴れ晴れとしていた。
(さっきまでは今日の天気と同じどんよりグレーだったけど――)
 そう、優越感じみたものに浸りつつ窓の外を見上げて、
「……げ。雨降ってるじゃないの」
 廊下の窓に近づくと、ガラス面を流れ落ちる雨水でグラウンドが煙って見える。
 散らばっているはずの運動部の姿はほとんどない。雨の中のランニングに青春してる、ヤケになった連中がいるくらいだ。
 これ、たぶん夕立なんだろうけど……どう見てもしばらく止みそうもない。
「っちゃー、やっぱ海里の言うこと聞いとくんだった」
 何故かあのコの天気予報――に基づく予測はめちゃくちゃ当たるのよね。それも、帰る頃をピンポイントに狙った夕立に関しては特に。
 朝、思いっきり晴れててお天気キャスターが本日快晴ところにより曇る程度でしょうとか言ってても、傘持った方がいいよとか言うんだもん。で、その通り雨が降って傘が大活躍。
 それから大きめの傘を持っていくのよね、あのコ。
 カバンにはいつも折りたたみ入れてるのに何でそんなことするかって、帰りに居合わせた友達に貸したり、一緒に入れてあげるためだっていうし。
(ま、その大半はアタシが入れてもらってたりするんだけど)
 とにかく、その的中率たるや、そこらへんの気象予報士なんかメじゃない。立派に商売できるわよアレは……って、何でそれに気付かなかったんだろアタシ。今度おこづかいピンチになったら考えようっと。
「それより今は、この雨をどうするかを考えないとよね」
 まあ、答えなんかもう一つしかない気がするケド。
(今朝はゆっくりしすぎて遅刻しそうだったから、折りたたみカバンに入れてられなかったんだもん)
 一応、悠ちゃん傘持ってねー!っていう玄関からの声に返事はしたんだけど。何せちょうど部屋のドア開けて出ようとしたとこだったからめんどくさくって。つい。
「郁美は帰っちゃったし。海里捕まえて帰りますか」
 そうと決まれば全は急げ。アタシは海里の教室へと足早に向かった。



 今日の六限が終わって早三十五分が経過。掃除当番という囚役制度がないこの学園で、帰宅部の人間を探すには絶望的な時分。
 ご多分に漏れず海里の教室はがらんとしていて、机とイス以外には部活中のコのカバンくらいしかなかった。よって、アタシはすぐさま廊下に戻り方向転換。
 グラウンドを隔てた先にある自治会室へ、逆コの字型の廊下をひた走る。

「いたいた海里ー!」
「あ、悠ちゃん」
 海里は資料らしき大量のプリントを細腕で抱えて、危なっかしくも器用に自治会室のドアを開けようとしたところだった。よろよろとこちらを振り返る。
「どうしたの? もう帰ったと思ったのに」
「この雨の中帰れっての?」
 アタシは握った拳の親指を立てるようにして、窓の外を示す。察しのいい海里はそれだけで事態の大半を理解したらしい。可愛らしい顔にめいっぱい眉を引き上げて、勢いをつけて詰め寄られる。ああほらプリントが飛ぶわよそんなことしたら。
「あー、悠ちゃん僕今朝ちゃんと言ったのに!」
「うるさいわね。急いでたんだからしょうがないじゃないの」
 アタシは一番上の落ちかけたプリントを元に戻してやりつつ、
「で、傘は?」
「あるけど、置き傘含めて三本あったうち二本はクラスの子に貸したから、僕の分しか残ってないよ」
「何でそんなに貸すのよ!」
「持ってこない悠ちゃんが悪いんでしょ。……もう。なるべく早めに終わらせるようにするから、待っててよ」
 咎めるような口調はそのままに、仕方ないなあと譲歩する、いつものやりとり。
 海里ってばホントにアタシに甘いわよね。ゴメンね、出来てない姉で――なんて口には出さないけど、こっそり謝っといた。
「ありがと、海里。さってと、それじゃ何して時間潰そうかなあ」
「自治会の手伝いでもしていったら? ……って言いたいとこだけど」
 ドアに向き直った海里は――まるでアタシが中に入ってたときみたいに――少しだけ、にやりとする。
「ジェイク先生の所に行けばいいんじゃない? 今日は職員会議もないはずだし」
「っな」
 何でそんなこと知ってんのよ、と続けようとして、自治会員なんだから知っててもヘンじゃないわよね、と自己完結して。
 そうこうしてるうちに何故か頭に血がのぼる。あっという間に、アタシの頬の熱は気のせいじゃ済まされない域に達していた。
 そんなアタシを見て海里はにっこり笑うと、いつの間にか開けたドアの中へと入っていく。
「じゃあ悠ちゃんごゆっくり。終わったらクランチまで迎えにいくからね」
「い、行くからねっていなかったらどうすんのよ! ていうかクランチに行くまで雨に濡れちゃうじゃない行こうにも行けな」
「んじゃ、これ使えよ」
 絶妙のタイミングで、アタシの目の前に細長い棒みたいなのが差し出された。ブラウンの、男物の傘。使って間もないのか布地が湿っている。
 アタシに一番近い傘の先端から柄の方へと視線を辿っていくと、自治会室のドアを押さえて海里を通してやっている悟センパイがいた。
「仕事柄寮監に判もらうこと多いからさ、傘が常備してあんだよ、ここ。向こう着いたら、入り口の傘立てにでも置いといてくれりゃいいから」
「え、はあ、あのでも」
「んじゃそゆことで。サードによろしくなっ」
 やたら爽やかに笑顔をキメて――悟センパイはアタシに傘を押し付けた挙句、ばたんとドアを閉めてしまった。





「……で、寮監室を待合室代わりにしようというのだな?」
 一口だけ飲み干したティーカップを静かに置くと、ここ――寮監室の主は静かに微笑む。
「い、いえあの、アタシは別にそういうつもりはなかったんですけど、その、なりゆき上そうなってしまったってゆーか、不可抗力ってゆーか……」
 あはは、と乾いた笑いを返してみると、授業に定評あるという英語教師の笑みもさらに深くなる。
 ……ふ、不機嫌顔されるよりずっと怖い。
「悠里」
「はいっっ」
 紅茶のカップを取り落としそうになりつつびしっと背筋を真っ直ぐ伸ばす。まるで死刑執行人の言葉を待つ囚人の気分だわっ。
「以前にも言ったはずだが。ここは女子禁制であり、寮監の私に用事がないのであれば入室する権利もない」
「わ、わかってます」
「ならば、どんな用事だ? 悠里。遠慮せずに言うといい」
「う……」
 さっきの笑顔のままじっと見つめられてるし。ううう、本当に怖いじゃないの海里のバカ。
「え、えっと、ですね。その」
「ああ」
 アタシの言葉を待つ先生は、じっと視点を固定させたまま動かない。逃げようなどとは考えないことだ、とか、暗に伝えられてるみたいで――
 ……あーもうどうなっても知らないわよ何かあったら海里のせいなんだから!
「じ、ジェイク先生に会いたかったから! ……とか。あは、は」
「……そうか」
 がたん。先生は椅子から立ち上がるとゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「規則を破ってでも私に会いたかったと、おまえはそう言うのだな?」
「え、えとまあその、そんな感じかもなー、とか……っ」
 えっあの何先生の手が伸びてきてちょっと待っ――アタシは反射的にぎゅっと目を瞑り、

 べしっ。

「いたぁぁい」
「気持ちは嬉しいが、ここは神聖な学び舎に面する場所だ。ふざけた気持ちで居るべきものではない」
「す、すみませぇん……」
 アタシは情けない声で謝罪を述べて、軽くはたかれた頭を両手で抑える。といっても、実際痛みはほとんどない。
 さっき叫んだのもそうだけど、痛がるフリをするのも反省の色を見せる手段だと思うのよね、アタシとしては。
 いい子の見本みたいな海里と比べたらパパに怒られるのなんていつものことだったし、叩こうとする手を見ただけで痛い気分になるってのもあるんだけど。えーと、何て言うんだっけこういうの。セキツイハンシャ? かっけの検査みたいなアレ。さっきのリアクションはそんな感じ。
 とにかく、そんなアタシの心意気が伝わったかどうか――って、無理よね、やっぱり。
 先生の呆れ顔は見ていてあんまり気分のいいものでもないし、半分くらい残った紅茶を名残惜しげに眺めつつ、アタシは席を立とうとした。
「? どうした、悠里」
「え、あの、校舎に戻ります。適当に図書室とか……することないですけど、まあぼんやりして待ってるのもアリかなって――」
 はあ。
 アタシのもっともらしい言い訳を遮ったのはジェイク先生の大げさなため息で。
「あの、先生?」
「……何も、今すぐ出て行けとは言っていないだろう」
 座っていろと指示をして、ジェイク先生は机へと向かった。仕事のときに使っているのだろうそこには、学生から提出されたらしいプリントの束とかノートの類が詰まれている。
 その中から一枚、何かが印刷されたわら半紙――多分そこに詰まれてるのと同じプリントだと思う――を引っ張り出し、
「ふむ。ちょうどいいな」
 中身にざっと目を通した先生はそんなことを呟いた。
(……何かものすごく嫌な予感がするんですケド……)
「悠里。今日のおまえはここへ勉強をしに来た。……ということにしておこう」
「げっ」
「このプリントは二年のものだが、夏休み明けの復習用の問題だ。一年のおまえでも解けなくはない」
「む、無理ですよ! アタシが英語苦手なの先生だって知ってるじゃないですか!」
「だからこそ勉強する必要があると、私は言っているのだが」
 ぴしゃりと通告すると、先生はアタシの前のティーカップを素早く片して代わりにプリントを配置する。
「さあ、筆記用具を出して始めろ。時間はまだあるのだろう? ゆっくりやるといい」
 嫌々ながらプリントを見てみる。……うーわー何かわけわかんない文字が羅列されてる。
 意味不明わけわかんない解読不能! 無理。もー絶対無理。日本語で書かれてる問題文すら理解できるかも怪しいもの。
「習っていない単語もあるだろうから、辞書の使用を許可しよう」
「……辞書なんか持ってないです……」
 教室のロッカーに置きっぱなしだもん。家に帰れば海里のがあるし。非力なくせに予習復習があるからって毎日持って帰ってきてんのよね、あのコ。よくやるわ。アタシなら絶対無理。あんな重いもの何で毎日持ち運びしなきゃならないんだっつーの。
 ……とか言ったら、絶対怒られるわよね。うん。
 全く仕様のない、とか呟いて、先生は戸棚から使い込まれた辞書を引き出してアタシの前にどさりと置いた。
「さあ始めろ。制限時間は迎えが来るまで」
 そうして目の前の席にがたりと座って、ペーパーバックを広げられては逃げようもなく。
「はぁい……」
 アタシは渋々、鞄からペンケースを取り出した。海里、ずえったい恨むわよっ。あと今思い出したけど、悟センパイも!





「……」
 ぺらり。
「…………」
 ぺらり。
「………………」
 ぺら……ぱたん。
「どうした悠里。少しも進んでいないようだが」
(ぜんっぜんわかんないんですケド……)
 のぞき込まれた手元は名前だけ書かれたプリントがあって、ふぅ、とかこめかみを押さえつつため息をつかれた。
 う、自分でも情けないって思ってるわよ一応。でもわかんないもんはわかんないしっ。
「最低、日常会話くらいはできるようになってもらいたいのだがな」
「日常会話?! うわー、それは何とも夢いっぱいな……」
 遠い目をして虚空を見上げると、先生は真面目な顔で言ってきた。
「夢にしてもらっては困る。私たちの将来に関わる話なのだから」
「……は?」
 将来? 英会話をマスターするのと将来に一体何の関係がって、
(……――それって、あの)
 ま、まさかね。アタシったらいつもの妄想癖でつい、それこそ夢いっぱいに勘ぐりすぎってゆーか。
「確かに私の祖母は日本人だが、あいにくと両親は本国を出たことのない、生粋の英国人だ。母国語以外での意志疎通は難しいのでな」
 ちょ、あの、何かアタシの想像がどんどん飛躍していくんですけど。しかも先生の言葉がそれに追いつこうとしてるんですけど?!
「あ、あの先生、それって、あの」
「両親におまえのことを紹介したい。まあ、私が通訳すればいいことだが……せめて自己紹介くらいは、自分でやってもらわねばな」
「ご両親に紹介って、っき、気が早くないですかそれっ」
 あわあわと爆発しそうなアタシに、にっこりスマイルを向けて、
「早くなどないだろう。むしろ早くするべきだ。私は、おまえを――」
 とても穏やかに先生は続けた。
「私の、恩人だと紹介したいのだが。……どうした悠里、何を突っ伏している」
「……別に。なんでもないです」
 絶対わかっててやってるこのひと。口元緩んでるし。あれ笑いをこらえてる顔だわよカクジツにっ。
「でも別にアタシ、恩人ってほど何もしてないです、そんな」
 げんなりしながらも、アタシは謙遜じゃなく言った。
 だって本当に何もしてないもの。ただ何て言うか……あのときはその、色々が、我慢ならなかっただけってゆーか。
「もちろん、おまえの思うように紹介してもいいのだが」
「っ?!」
「ただそれは、おまえの父親に了解をもらう方が先だろう」
 さらりと。
 ホントに何でもないようなことみたいに、ジェイク先生は言ってのけた。
(……う、わ)
 上げようとしてた顔が上げられないんです、けど。アタシの顔真っ赤だ。鏡で確認しなくたってわかるわよめちゃくちゃ熱いし。
 先生の言うことはつまりその、見事なまでにアタシの、飛躍しまくった予想通りであって。
「悠里」
 椅子が引かれる音。近づいてくる気配。シャーペンを持ったまま硬直した右手に大きな手が重ねられる。
「……嫌か?」
 やたら近い位置から声がして反射的にぶんぶんと首を横に振ると、右手を覆っていたはずの手がぺたりと頬にあてられて、顔を上向かされる。
 茹蛸みたいに真っ赤なアタシの顔を見て、先生は嬉しそうに苦笑した。
「今すぐにとは言わない。……ゆっくり歩いていこう、悠里」
 はい、と掠れる声で返事をして、そこから先は何も言えなかった。

 耳に届くのは雨音。
 柔らかく触れ合うそこがゆっくりと押し開かれて、アタシはびくりと身を強張らせた。





「失礼します。悠ちゃん、迎えに来たよ」
 礼儀正しくノックをして了解をもらってからドアを開けて、海里と悟センパイが姿を見せた。
 時計を見ると十八時ちょっと前。カーテンを閉めたままだったから時刻変化がわかんなかったせいもあるけど、随分経ってたんだ。
「うわ悠ちゃん、勉強してたの?!」
「何よその反応。アタシだってやるときはやるんだから。……まあ、させられてたってのが正解だけど」
「はは、そりゃ災難だったな悠里」
 ここに来るハメになった原因の首謀格はプリントをのぞき込むと、
「お、これかぁ。俺も全っ然わかんなかった」
 他人事よろしくからから笑う。
「悟先輩、笑い事じゃない気がしますけど……」
「まったくだ」
 海里の的確なツッコミに、呆れ顔の先生がため息をつく。
「いい機会だ悟、おまえも復習しておけ。提出は明日だ」
「げ、やぶへび」
 悟センパイが渋々受け取らされるのを見ながら、アタシの制限時間も海里が来るまでだったのを思い出した。
 目の前のプリントを確認。設問八個のうち、どうにか埋められたのが三つ。あとは辞書見てもさっぱりわかんなかった。努力はしたわよ一応。とりあえず問題文くらいは全部読んだもの。
 ちらりと先生の方を窺ってみる。
「悠里、おまえもだ。海里に聞いてでもいいから、やれるだけやってくるように」
「そ、そんなぁ。アタシ今日夕食の当番だし……」
「何言ってるの悠ちゃん、そういうことなら今日は僕がやるよ。悠ちゃんの好きなもの作ってあげるから、頑張って」
「諦めて刑期を全うしようぜ、悠里」
 なんて肩を叩いてくるやっぱり他人事っぽい悟センパイ。その後ろで、海里は先生からプリントの内容を見せてもらっているみたいだった。
 アタシは先生に気付かれないよう小声で言う。
「……悟センパイ、誰のせいだと思ってます?」
「俺、だな。だからほれ、俺も素直に受刑すっから」
 プリントを摘んで示すセンパイ。さっき、因果応報ってやつかなあくそ、とか言ってたの聞こえてましたけど――そう続けようとして、視線を感じた。
 悟センパイの後方約二メートル。海里への解説は済んだのか、ジェイク先生は穏やかな笑みを浮かべて、アタシを見ていた。
(……う、わちょっ何思い出してんのアタシは!)
 甦る色々がアタシから思考を奪って、代わりに顔面の温度を上昇させる。
「? どした悠里、熱でもあんのか?」
「べ、別にどうもしてないですっ」
「そうか?」
 ――ぺたし。
 不意に、額へ冷たい手のひらの感触が来た。
「うーん……やっぱ熱いだろ、おまえ」
 もう片手を自分の額に当てながら、悟センパイが言う。
 突然のことだったからアタシはぼんやりと、センパイの手って結構大きいんだ、とか思ってて。
「なあサード、悠里診てやっ――」
「ああ」
 ぱしん、と。
 ……アタシの目には払ったように見えた。ええもう見えたわよ。
 額の手はそのままに振り返ろうとした悟センパイの手を、つかつかと素早く歩み寄ってきた先生の手が、こう。ばしっと。
 わけもわからず硬直気味のアタシの目の前を陣取ったのは、心配そうというよりは微妙な仏頂面の先生。
 こっちの前髪をかきあげるようにして、先生の節ばった手が触れてくる。センパイのものよりずっとひやりと冷たいそれを、気持ちいいとか感じる余裕は微塵もなく。
「知恵熱でも出たか?」
「ち……知恵熱って、し、失礼じゃないですかっ」
「ならば何だというのだ? 悠里」
 な、何だって言われても。だってこれは先生のせいなわけで――あれ?
(もしかして先生、アタシがその、悟センパイにときめいたとかそんな風に思ってたり、……する?)
 ふう、と軽く嘆息すると、先生は屈んだ状態からゆっくり立ち上がった。
 額に触れた手はそのままだったから、僅かに先生の重心が預けられて、椅子に座ったままのアタシの体が少しだけ後ろに傾ぐ。
 それを止めるように先生の手が肩口を掴んできて、そのままぐいっと引き寄せられた。
「せ、先生?」
 先生の腰辺りにアタシの頭がある。スーツの裾に頬がつきそう。戸惑いながら見上げたその先には、いまだ憮然とした感じの表情がある。
 ……これって、何だかまるで。
「何にせよ、課題はやってくるように。やってこなかった場合は罰を与える」
「ば、罰?!」
「内容は秘密にしておこう」
「そんなぁ……!」
 そんなアタシたちのやりとりをさっきからぽかんと眺めていたセンパイは、がりがりと頭をかきながら大きくため息をついた。
「あー、サード」
「何だ、悟」
「いやまあ、俺はいいんだけどさ。でもそのなんつーか、……少し大人気なくないか?」
「何の事だ」
「……海里、どう思う」
「ぼ、僕にふられても……悠ちゃぁん」
(それこそアタシにふられても困るわよ!)
 叫ぼうにもこの至近距離で叫べるはずもなく。

 結局先生の顔は、さよならを言うときまでずっと仏頂面のままだった。



 余談になるけど。

 課題は海里の手助けもあって、どうにか提出することができた。
 うん本当に、海里があれだけ必死になってくれたおかげ。切羽詰った表情で僕が悠ちゃんを守るからね!とかわけのわからないことを言っていたのが印象的だった。
 一夜漬けなんてしない、早寝早起きが習慣になってるコだから、きっと睡魔で前後不覚になってたんだろうケド。……たぶん、ね。






 随分長いこと書いて消して書いて消してしてたネタだったんですが、気が付いたらジェイクせんせーがものすごいアホの子になってましたごめんなさい。
 でも周囲の面倒見ながら育ってきた悟先輩はきっとつい癖で熱とか測っちゃうと思うわけですよ!
 ちょっとしたことでスネるせんせーのことだからきっと過剰反応するんじゃねえの!? とか思ってみたわけですよ!
 そして弟は弟で言い知れない危機を感じてみたりするわけですよ!(でも先生的にはそんなつもりはないと思うに一票)(悠里卒業後の以下略に一票)(……)

 ……ゆ、夢みがちでごめんなさ……(平謝り)

 ところでジェイクせんせーは色々順番間違っちゃうタイプのひとだとおもいます。
 将来取り付けてからようやく呼称変更に思い当たる、みたいな(ありえねえ!)
 個人的には先生呼ばわりの方が萌えだったりするので、しばらくは先生呼ばわりしてくれるのを希望(それを夢みがちだと)
 PLUSのおまけシナリオにて寮監室は夕方以降は学生が誰かしら出入りしてるって話でしたが、この日は偶々出入りが少なかったとゆことでひとつ(ぉ
 いや雨降ってて運動部が中止になって怪我人がろくに出なかったとか傘さしてまでせんせーのとこに来て授業でわからんこと聞きに来るような学生がいなかったとか(苦しいよ)(むぎゅが)

 あとジェイク×悠里といいつつ弟×姉じみているのは気のせいじゃないですごめんなさい。ぶっちゃけ弟×姉大好物です(ぉ
 だって弟萌えじゃないですかあの姉の心配っぷりったらないですよ!
 そして性格悪そうな姉も根底ではものっそ弟思いじゃないですか!
 ゲーム途中で二人で暮らそうねとか言い出したときにはそれでいいよお前らそうしろよそうするがいいさ!とかツッコミまくりでしたとも!(ぉ
 つーかね、PLUSで追加されたエピローグのそこかしこで、さんざん海里が「僕寂しいな」を連発するのがイカンのです(こら)


 今後もジェイク×悠里と主張しつつも根底には弟×姉、みたいな話ばっか書いてくとおもいます。
 ていうかそんなネタしか出てきてません(笑)
 お好きな方はついてきていただければ幸いです。

(2005/01/24 up)

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