そこで、俺はようやく気付いた。
(俺……)
 何で今更気付くんだろうと思った。
 何で今まで考えもしなかったんだろうと思った。
(ずっと自分のことばっか考えて、ティアのこと考えてなかった)
 いや実際ティアのことばかり考えていた。
 けれど、ティアがどう思っているかということについては、何一つ考慮に入れてなかった。
 だって、俺が嬉しいのはともかく、ティアが嬉しいとか、そんなの――どう予想しろっていうんだよ。
 忙しいとこに急に俺が訪ねていったりして、むしろ迷惑なんじゃねーかとかさ。ほらティア真面目だし、客が来たらちゃんと対応しそうじゃんか、仕事は後回しにしてさ。それってどう考えても効率悪いし、ティアそういうの嫌いだろ多分。いらない面倒かけさせてるってゆーかさ。
 だから――なるべくティアの負担になるようなことはしまいと、心に誓ってきたのだ。手伝いをお願いしたときだって、別にいらないと言われたらさっさと引き下がるつもりだった、本当は。
 なのに。
(ティアも、俺と同じ?)
 二年経ってもろくに成長してないへたれで情けない俺と、ティアの思考が重なることがあるだなんて。なんだそれマジでありえねー。
 でも、目の前のティアは紛れもなく現実としてそこに居る。
 手を伸ばして届くどころか、腕を伸ばせば抱きしめられる距離に。
 想いが通じ合うというのは、こういうことをいうのだろうか。
「……っ」
 今にも膨れあがって爆発しそうな感情を必死で宥めながら、ふと思う。
 ティアがいてくれたから今の俺があるんだと思う。ティアがいなかったら帰ってこれなかった気さえする。

 ――ティアは俺に、生きる意味をくれたんだ。

「ティア」
「……なに?」
「今から、ちょっと馬鹿なこと言うかもしんねーけど、聞いて欲しい」
「馬鹿なことって……何を考えてるの?」
 ティアの眉がきり、と吊り上がる。さっき夜道で出会ったときの、あの不安そうな空気をまといながら。
「ち、違う、そういうんじゃねーって」
 まだ不審そうな表情で、それでもティアは居住まいを正してくれた。……正直、そんな真剣に聞いてもらっても困るんだけど。でも仕方がない。
 言わないときっと寝れないし、次に言える機会がいつだかわかんねーんだし。
「その、さ。ティアがいなかったら、俺はここにいなかったよな」
「それは……私にも同じことが言えると思うけれど」
「はあ? そんなことねーだろ」
「なら、私もあなたの言ったことを否定せざるを得ないわ」
 強気に出られてしまえば、反論も叶わない。やっぱり俺へたれだと再認しながら、話を強引に元へ戻した。
「とにかく、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、……だから、その」
 必死で言葉を選んだ。
 この膨れあがった気持ちを、うまく伝えてくれるような言葉を。
「こんなこと考えんの図々しいってわかってっけど」
 言い訳が先に出た。
「ティアが生まれてきてくれたのはさ、俺を生かしてくれるためだったんじゃねーか、とか……あ、いやもちろんそれだけが生まれた意味ってわけじゃねーと思うけど!」
 そうして一気にまくしたてて、結局とんちんかんなことを言っただけだと気付いた。
 一応、言いたいことの意味合いとしては間違っていないと思うのだが、――正直、何が言いたいんだかわかりにくい。しかも随分と押しつけがましい。
 これでは単に、根拠のない思い込みを吐露しただけだ。
 ティアがずっと黙ったままなのがいい証拠だ。やっぱり呆れられたのだろう。
「……悪い、ほんと馬鹿なこと言った。ごめん」
「どうして謝るの」
 ばか、と語尾がくっついた。
「だから馬鹿なこと言うっつったじゃねーか」
「馬鹿なのはそこじゃないわ」
 そうぴしゃりと指摘したティアは、少し怒ったような口調だった。
「さっきも言ったけれど、それは同じようにあなたにも言えることだわ。私が今ここにいるのは、あなたのおかげなんだから」
「だから何でだよ。別に俺、ティアの役に立つよーなこと、ろくにできてなかったし」
 したことといえば迷惑をかけるとか心配をかけさせたとか、旅の間はそんなことばかりだった。
「約束、……守ってくれたでしょう?」
「それは、っつーか、必ずって言ってきたのはティアの方だろ」
「必ずって返してくれたのはあなたの方だわ」
 ぐ、と言葉に詰まる。そんな自分を見てティアはくすりと笑った。
「今こうして、あなたと……いられるのは、とても嬉しいし、喜ばしいことだと思うわ」
 だからそれはこっちのセリフだと言う前に、ティアは後を続けてしまう。
「だから、私がこんな気持ちになれるのは、あなたがいてくれるおかげなの。……ありがとう、ルーク」

 俺は二の句が継げなかった。
 妙に眩しく見える、ふわりとした微笑みのせいもある。
 何より今日のティアは、こっちの言い分を全て先回りして自分へ投げ返してくるのだ。
 なんだそれマジでありえなくね?
「っば、な……おまっ、それ、全部俺のセリフだっつーの!」
 つーか、半ば混乱気味に逆ギレしてる俺が何より格好悪すぎじゃね?
 そんな俺を見てティアはくすくすと笑い出す始末。……だーもー。情けねえったらありゃしねー。
「……んな笑うことねーだろ」
「ごめんなさい。でも、だって」
 笑いすぎで涙でも滲んだのか、青い瞳を潤ませながら、ティアは言った。
「さっきから私たち、同じことばかり言ってるんだもの」
 それは、俺もさっきから思っていたことで、
「似たもの同士ね」
 にこりと微笑んで、ティアはそう一言でまとめてくれた。
 似たもの同士。
 俺とティアが似てるってのもなんか変な感じだけど……悪い気はしないかな。まあぶっちゃけ嬉しいんだけど。
 やがて笑いの波がおさまったころ、俺は雰囲気と場の流れと勢いと、嬉しさにガツンと後押しされた勇気でもって、ティアの手をきゅっと握った。
 ティアの視線は握られた手じゃなくて、俺の顔の方にある。
 いいかげん暗さに目も慣れていて、その頬がちょっとだけ赤いことに俺は気付いていた。多分俺の顔の方が赤いっていう確信もあったけど、今は気にしないことにする。
「ありがとな、ティア」
「ええ」
 ティアの小さな返事が合図だったみたいに、ゆっくりと、吸い寄せられるように近づいて。



 生まれた意味は――少なくともそのうちのひとつは、今ここにある。



 ただそんな考えは、なんかとにかく柔らかい感触にごっそり上書きされて、すぐに見えなくなってしまった。

 でも、別にいい。
 俺は今確かにここに生きていて――そのことを心から良かったって、そう思ってるから。






 「ルクティア好きさんに5のお題」で5つあるうちの4つがちっともルクティアっぽくならなかったので頑張ってルクティアにしようと努力しました。こ、これでどうだ!(と言われても)

 実は今回お題というものに初めて挑戦してみたんですが、どれもこれもこじつけ全開フルスロットル満塁ホームラン出血大サービスという有様で激しく惨敗気分です。
 やはり私はお題というものに性が合わないんだと実感した次第でありますよガクリ。

 ともあれ久々に健全なルクティアっぽいものを書けて楽しかったです。お題配布元のルクティア同盟さんありがとうございました!

(2006/06/26 up)

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