「騎士を拝命してから、ユーフェミア様はどんな人かとよく聞かれるようになったんです。それが、本当に何度も聞かれるから、ちゃんと回答を用意しておいた方がいいかと思って、考えたんです。……自分から見て、あなたはどんな人かって」
 ユーフェミアはどこか硬い表情のまま、小さく頷いた。
 先を急かされた心地になりつつ、相槌を返されただけだと己に言い聞かせて、続ける。
「最初は、太陽というか……お日様みたいな人だと思いました」
 「お日様」、という単語に差し替えたのは、彼女の雰囲気を考慮してのことである。
 可愛らしい彼女には、子供が空を指差して言うような「おひさま」という言葉の方が合っている気がしたのだ。
「でも考えていくうちに、「お日様」だと、あなたを言い表すには足りない気がしてきて」
 彼女の笑顔は温かくて優しくて、見ている者の心を安らがせる。側に居るとそれがよくわかった。
 その優しさに自分は救われた。いや、救われている。それはきっと今後もそうなのだろうと、スザクは思っている。
(でも、それだけじゃない)
 彼女はただ優しいだけの人ではない。
 あのときスザクを救ったのは、確かに彼女の優しさもあった。
 だが何よりも彼を救ったのは、彼女の大胆かつ強引な――力強い言葉。
「ところで、ユーフェミア様は、「北風と太陽」というお話をご存知ですか?」
「え? ええ。確か……北風と太陽が、旅人のコートを脱がそうと競争するお話、だったかしら」
 太陽の勝ちだったわよね、と続けるユーフェミアに、そうです、とスザクは頷く。
「「太陽」という単語から、その話を思い出したんです。そうまるで、あなたみたいに、突然にね」
 スザクがからかうように言って、ユーフェミアは照れたようにはにかんでみせる。
 そうして二人で小さく笑い合うと、ゆるく張り詰めていた空気が少しずつ和んでいく気がした。スザクの口調に僅かだが余裕が出てきた。
「あなたは太陽だけじゃなくて、北風みたいな一面もある。二つを足して二で割ったみたいだなって」
 突然に始まった北風と太陽の競争。
 さんさんと照らす太陽。強引にコートを取り去ろうとする北風。
 それが合わさって、自分は新たな扉を開けられた。
 北風のように一方的で強引で――けれど、そこにはいつだって温かで柔らかい優しさが満ちていて。
「でも、ユーフェミア様は「北風と太陽」みたいだ、なんて言うのも変ですし。理由もうまく説明できないですし……だから、もっと他に何かないかってまた考えて」
 そうしてスザクは、この島国特有の、ある風の名称に思い当たった。
(ユーフェミア様はまるで、春一番みたいだ、って)


*****


「わかっていただけました……?」
 自国特有の言い回しについて説明を終え、最後はやや弱気になりながら、スザクは主に問うてみた。
「その、ハルイチバンて、物凄い強風のことなんでしょう?」
「はい」
 「イレヴン」にとっては馴染みのある単語だが、ブリタニア人からすれば何のことだかわからない者の方が多いだろう。
 結果、無用な説明を避けるべく、スザクは己の主のことを「春一番みたいな人」ではなく、「春みたいな人」と言うことにしたのである。
「それって……、褒めているの?」
 訝しむような声に、スザクはもちろんです、と断言する。
「日本人にとっては、春の到来を告げるものですから。確かに、強すぎる風というのも困りものではありますけど……でも、とても喜ばしいものですよ」
 むしろ歓迎されるものなんです、と続けるスザクの説明にも、ユーフェミアはまだ納得がいかないらしかった。
 少し考えてから、下から軽く睨みあげるようにして彼の瞳を捕らえる。
「みんながみんなそうではないかもしれないけれど……少なくとも、スザクにとっては、そうだってこと?」
「そうです。それに、……春って、好きなんです。季節の中で一番」
 ぱちくりと、ユーフェミアはその大きな瞳を瞬かせた。
「そうなの? 初めて知ったわ」
「初めて言いましたから」
 そこで一度会話が途切れて――二人同時に破顔する。
「そういうことなら、怒る理由がないみたい」
「ならよかった」
 ありがとうございます、とスザクは軽く頭を下げた。
 己の勝手な戯れ言を許してくれた主に、感謝の念を示したかったのだ。
「じゃあ、私にとってのスザクは――」
 言いかけて、第三皇女は少し難しい顔になり、そのまま黙考に入ってしまった。
 反応のしようがないスザクは、とりあえず笑みを保ったまま途中小首を傾げたりする主を見守る。
 内心、どう言われるのだろうという不安と、自分のことで悩ませてしまって申し訳ないなという後ろ向きな心地でいっぱいになりながら。
「……そうね。うん」
 考えが固まったらしい。彼の守るべき姫君は、柔らかい笑みを彼へと向けた。そして言う。
「私にとって、スザクはスザクです」
 例によって予想外の回答を披露され、スザクはただ目を見開いて、目の前の主を見つめ返す。
「考えてみたけれど、何かに例えられそうにないわ。スザクは私の大好きなスザクで、それ以上でも、それ以下でもないんだもの」
「――……はい」
 わけもわからず胸がいっぱいになって、スザクはそれだけ言うので精一杯だった。
 決して不快ではないその胸焼けが収まった頃、彼の口からするりと言葉が飛び出した。
「ありがとう、ユフィ」
 きょとんとした彼の主人は、ゆっくりとその表情を変え、満面の笑みを返してきた。

 ――ああ、やっぱり。

 あたたかくて、優しくて、そこにいるだけで、新しい何かが始まっていくような――自分の一番好きな季節と同じ――春みたいなひとだ。
 己の認識が間違っていないことを改めて確認しながら、スザクは意識せず笑顔を返した。







 まだユフィ呼びが定着してない頃にそんなことあればいいなとか大変夢見がちに突き抜けてみました(帰って来い)
 いやだって#21のあのナチュラル加減ぜってえ人目がない公式の場以外ではユフィと呼びなさいとか誓約が交わされたに違いないよ!

 言うまでもありませんがユフィにチクったのは物陰から睨みをきかせていたニーナです。
 友達ということでこっそり手紙を預かってきて渡して仕事の話を終えてみたらそんな爆弾投下。
 地雷と知らずに仕掛けて全力でひっかかるそんな期待を裏切らない天然コマシであればいいとおもいます(こら)

 それから設定考証その他を助言してくれた某さんありがとー! イエス・ユア・ハイネス(ぐっ)(かわいそうなひとがいます)

(2007/03/21 up)

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