2005/11/09, Wednesday 23:58:08
何故か
しばらく沈黙とか言った途端にコレですよ。
ええと元気です。今日は水曜日ゆえ仕事場が「残業すんな帰りやがれデー」(意訳)だったので、何か流されるまま普通に帰ってこれました万歳。
とゆわけで休憩時間にストレス発散的にガツガツ打ち込んでた(……)スヴェイヴ@アニメ版を放置しておきます。
いやなんでだか自分でもよく! まあ半ばリハビリ的にやってみたというか。うん。
えーと時間軸はアニメ4話の後あたりで。
気がついたらうっかり長かったので更新に使おうかと思ったんですが、5話が見れてないので使うに使えない……(問題なければ後で使おう……)
ええと元気です。今日は水曜日ゆえ仕事場が「残業すんな帰りやがれデー」(意訳)だったので、何か流されるまま普通に帰ってこれました万歳。
とゆわけで休憩時間にストレス発散的にガツガツ打ち込んでた(……)スヴェイヴ@アニメ版を放置しておきます。
いやなんでだか自分でもよく! まあ半ばリハビリ的にやってみたというか。うん。
えーと時間軸はアニメ4話の後あたりで。
気がついたらうっかり長かったので更新に使おうかと思ったんですが、5話が見れてないので使うに使えない……(問題なければ後で使おう……)
--------------
かすかな気配に続いたのは、己を呼ぶ静かで小さな声だった。
当人はさほど意識していないようだが、もともとハキハキ喋る娘ではないので自然と時間帯を慮った声量になったようだ、そう解釈する。
「どした、イヴ?」
細い両腕が抱えているのは枕だろうか。リンス提供のこの家屋には子供用のソレなどなく、その外見的には少女――下手をすれば幼女――の彼女が持つと、抱き枕のようにも見える。
とにかく、それを軽く抱きしめ、閉めたドアの前で佇む彼女は、訪問理由をぽそりと告げてきた。
「いっしょにねていい?」
「……は?」
予想だにしなかった言葉――いや予想はしたしたが単に冗談半分で考えてみただけの話であって、まさか現実のものになろうとはっていうかまともな返答ができないうちにすたすた近寄られてるじゃねーかって、
「ま、待ったイヴストップだストップ!」
勢いよく両手を彼女の方へ突き出すという、かなりのオーバーアクションを交えた意思表示は、無事に彼女へと伝達され理解し了解してくれたらしい。
半身を起こした状態で毛布をかぶっている自分から、僅か一メートルほどの場所で足を止めてくれた。
ドア付近には届かなかった月明かりが、彼女の姿を暗がりに浮かび上がらせる。
ぶかぶかのTシャツからのぞくすらりとした肢。月光に反射して白っぽく見える腰よりも長い金の髪。
くらりとした何かを感じたのは、たぶんその僅かなきらめきに目が眩んだせいに違いない。
「……だめ?」
そう、軽く小首なぞを傾げられる。
さらりと、肩にかかっていた金色の一房が滑り落ちた。
反応が遅れたのは、うっかりその流れる金糸を目で追ってしまったからで、不審というよりは不満、いやむしろ寂しそうな瞳から濡れたようなきらめきを遠慮がちに送られてしまったわけで、頭の中がさらに真っ白に塗りつぶされそうになるのを必死でこらえたからだ。
い……いかんいかん紳士たるもの女性の頼みは可能な限り無条件に応じること。落ち着け落ち着け無我の境地。
(……そう、だよな)
それは無意識に浮かんだフレーズではあったのだが。
イヴも「女性」には違いないのだ。
例え、人工的に作り出された、人間ではない、ナノテクの結晶だったとしても。
例え、外見が年端のいかない未成熟さを保っていても。
「スヴェン」
ドアのところで呼んだそれよりも、心なしか語調を強めて、回答を促されている。
互いの目線の位置関係上、必然ともいえる上目遣いを伴って。
「あー……」
オホンゲホンと、いかにもな咳払いを声で表現して霧散しかけていた威厳を纏い直す。そう、紳士たるもの人前で狼狽の様を晒してはならないのだ。
「今の部屋、気に入らないか? それともベッドか枕が合わなかったかな」
何度も言うようだが、子供用の品は一つとして無いのだ、この家は。
「そうじゃない。へいき」
程首を振りながらやんわりと否定するイヴ。
「そんじゃあ……怖い夢でも、見たか?」
少し迷ったあと、イヴはわからない、もう一度首を振った。
「ゆめはみたけど、どんなのだったかおぼえてない」
(……なるほど)
これで先ほどのイヴの言葉が理解できた。
見たけれど覚えていない夢。それに不安を掻き立てられたのだろう。
今、彼女にとっては未だ多くのものが、未知の存在として認識されていると思われた。
つい最近まで彼女の世界は、あのコルネオの屋敷と、彼が連れ回した社交場程度でしかなかったはずだ。
こうして唐突に広がった世界に不安を抱くなという方がおかしいし、そこに怯え――というよりは警戒、だろうか――てしまうのも無理はない。
(ない、が……)
そこで頼られるのはまあ正直嬉しいわけなんだがいやしかし。
ちらり、ともう一度イヴを観察した。
足の先から頭のてっぺんまで、何度見ようともそこにいるのは小さな少女でしかない。
その身体機能および構造が、人間のソレとは違っていたとしても、だ。
「スヴェンは、わたしがいると、めいわく……?」
「っそ、そんなことはないぞ!」
「じゃあ、いい?」
主語も目的語も省略して、繰り返される問いかけ。
省略したのは、それだけ焦れていると、繰り返す間も惜しいのだと、そう感じ取れなくもない。
現実逃避的に言葉の裏を探るような真似をすれば、の話だが。
「そうだリンス、リンスが居るだろ、アイツんとこなら」
「さっき行ったらスヴェンのところに行けって」
先手は打たれていたというか――そうか先ず最初にリンスの所に向かったのかイヴは賢い良い子だなあ――諦念が心に涙を流させる。
「それにリンスお酒くさい」
……いやまあ飲むなとは言わないが。理不尽な何かを感じてならないのは俺の気のせいか?
「それ言ったら、俺だって煙草臭いぞ、たぶん……ああいや、かなり」
くんくんと袖だの襟あたりを嗅いでみる。
自分では既に麻痺しているようなもので、どれほど臭うのだかはわからないが、体に染み付いてしまっているのは確かだ。つーか、そもそも呼気がヤニ臭いんだろうな。
うーむ、少しは控えた方がいいんだろうか。せめて、イヴの引き取り先だか行き先だかが決まるまでは。
そんな俺の態度から了承の意を感じ取ったのか(腹を括るしかないと理解したのは確かだった)、イヴはとことこと歩み寄ってくる。
ベッドに手をついて体を引き上げ、四つんばいでのしのしと近づいて。
「イ……」
制止の意をこめるべく声にした名前をさえぎるように、金の頭がするりと倒れこんできた。
鼻腔をくすぐるのは、自分も使ったボディーソープの匂いだった。けれど致命的に、己にまとわりつくソレとは何かが違う。
その違和感の正体を探る。
……ことに、逃げた。
(ああ、そうか)
これは彼女の香りなんだ。
そう、無意識の思考が回答にたどり着いた瞬間、
「スヴェンのにおい」
「はぃぁ?!」
まるで心を読まれた挙句意趣返しっぽくアレンジされたかのような――何故か安堵に満ちた呟き。
うろたえる自分を見上げるのは、やわらかな微笑みでこちらの襟足を掴んで見せている、少女。
「スヴェンのにおいだから、へいき」
「あー……そう」
かなり適当な相槌になってしまったのは仕方がない。
何せ頭がまともに回ってなかった。言うなればオーバーヒートというか。
いやむしろ現実逃避的に真っ白にならざるをえなかったというか。ビバ紳士本能。
擦り寄るようにして布団にもぐりこんできたイヴがシャツを何度か引いて、半身を起こした状態で固まった俺を早く寝ようと促す。
まだ半分ほど思考は停止したままだったが、体が自動的に、それこそ機械みたいに勝手に動いて――ひとつの枕に二つの頭は乗っからなかったので、俺の左腕が簡易枕へと変身した。イヴの能力に勝るとも劣らない変化っぷりだ。
ちなみに彼女が持参していた枕(翌日確認したら単なるクッションだった)がさりげなくベッドの近くで放置されていたことなど、このときの俺に気付けとかいう方が無理だ。ブラックキャットとサシで勝負して泣いて謝らせるとかぐらい無茶な無理かげんだ。
いやもう本当俺何やってるんだこんなとこリンスに見られたら何て言われるかっていうかいやもう知ってるのか、よし明日は早起き決定何事もなかったかのように朝メシ作って食って全部スルーしてみせる。それが紳士というものだ。
そのためには、
「おやすみ、スヴェン」
「……おやすみ、イヴ」
天使の囁きにどこまでも素直に従うのみ。
眠る眠れるぞ紳士だからな俺は! ていうかそもそも何を慌ててるんだろうな俺は!
まあそれはたぶん、この後に続く事態を発動させてもいない予見眼あたりが感じ取ってしまってたんだろうよ危機管理能力バッチリな俺ってイケてっかなー!!
……や、勿論わかってもらえてると思うがヤケだ。
「……スヴェン」
くいくいと、シャツの肩あたりが引かれる。
もう翌朝目覚めるまで絶対開かないぞと心に決めた目を、志半ばどころか最初の一歩で挫かれて、ゆっくりと開く。
(……なん、だ?)
懇願――だろうか。
未だ感情表現の幅が狭いその表情を、月明かりの中で正確に読み取るというのは、まあぶっちゃけ難しい。
じっと、少しだけ遠慮がちに、見上げてくる瞳。
ただそこだけに感情を伴わせて、イヴは言葉という形でのヒントを与えてくれなかった。
「あー……と。イヴ?」
ダメだ。わからないものはわからない。変に見栄を張ったところで、それは逆に彼女を傷つけることにしかならない気がする。
いや傷つけるというのは語弊があるか、がっかりさせてしまうというか……そう、期待を裏切ってしまいそうな。そんな予感がしていた。
「悪い。俺は万能なエスパーとかじゃないんで、できれば口で言ってくれると助かるなー、なんて」
途端、イヴの表情が僅かに曇るのをしっかり判別してしまった。
勝手に口が滑る。回る。紳士たるもの饒舌たれ。ああもう何でもアリだ紳士。
「ああいや、全然ちっとも全くこれっぽっちもわからないわけじゃないぞ?! そのだな、あー、そう! その方が多分すぐにイヴの希望に添えると思ってだな! うん」
俺に出来る範囲でなら――という条件つきではあるが。そこは言わぬが花だろう。
「……スヴェン、おやすみ」
「え。……ああ、おやすみ、イヴ」
いやなんつーか、言葉でなく態度で否定されるとゆーのはこうグッサリ来るものがあるなあちくしょう。まあ悪いのは俺だけどな! 不甲斐なくてごめんなイヴ!
このまま(心の中でだけでも)泣き寝入りしてやろうかと思ったのだが、
「……イヴ?」
本日二度目の就寝の挨拶を終えたはずのイヴは、何故か未だ自分を見つめたまま。
その瞳の真剣さからして、まず寝ようとかいう気配すらない。
「おやすみ、スヴェン」
「あ、ああ……おやすみ? というか、寝ない……のか?」
「だって、まだあいさつしてもらってない」
「挨拶? おやすみ……は、言ってるよな」
何か他に言い方とかあるんだろうか。
(まさか、コルネオが妙な合言葉みたいなのを仕込んでたとか言うんじゃないだろうな)
だとしたらお手上げだ。奴は目下行方不明の指名手配真っ最中。例え生きていたにしても、奴の胸糞悪いあの生業は続けられる状態ではないだろうから、隠遁生活を送らざるをえないはず。
つまり、一介の掃除屋が片手間に探せる相手ではなくなったということだ。
(くそ、リンスがぶっ飛ばしたデータの中に残ってたとか言わないよな)
どうすりゃいいんだ。
俺から「あいさつ」をもらわない限り寝れないと、イヴはそう言っているのだ。
(俺のせいで一晩中寝かせなかったとか、……字面だけでも問題がありすぎるぞそれ)
背中付近を冷たい汗が流れていく。打開策はないものか。あってたまるか。しかしそれでは紳士の名が廃る。
「……」
そうしてぐるぐると悩み続ける俺へ、彼女はいともあっさりと、切望していたそれを無造作に投げつけてきたのだ。
「おやすみのキス」
「……は?」
「スヴェンにおやすみのちゅーしてもらってから寝なさいねって。リンスが」
コルネオのとこではどーだったかは知らないけど、世間一般ではそれが普通だから。というかそういう決まりだから、守らないとだめよー?
イヴがろくに抑揚のない口調で、先ほどリンスの自室を訪れた際に言い聞かされたという、部屋の主の言葉を復唱してくれた。
その後しっかりと、リンス曰くの「世間一般の就寝時の挨拶」を言い出しっぺから施され――結果、イヴに酒臭いと言わしめた。とまあ、そういうわけだったらしい。
(……んのアマ、いっぺんシメる)
そもそも今回のことは奴が酒さえ飲んでいなければ起きることはなかったのではなかろうか。
よし、イヴと行動を共にする間は禁酒令を施行する。今決めた。
そうして今すぐにはぶつけられない数多の感情を握った拳に溜め込んでいると、
「スヴェン」
シャツの肩口を摘んだまま。
見上げてくる純粋な瞳に、罪などあるはずもなく。
「……わかった。わかったから。とりあえず離してくれ、シャツ」
「あ。ごめんなさい」
しゅん、と軽く俯いた金髪に、ぽふりと手を乗せる。上向いた目線を、逃げることなく受け止めた。
「あのなイヴ。酒飲みの言うことは信用しなくていい。ありゃ嘘だ」
「……うそなの?」
「まあ、そういう挨拶は確かにあるが、誰も彼もがやってるわけじゃない」
「スヴェンは、しないの?」
「……少なくとも、ここ最近はしてないな」
おやすみのキス――親が子供にする親愛表現。
こう見えても俺は独身だし無論隠し子だっていやしない。断じて。紳士だし。
「あー、だからその、何だ」
イヴの表情が、風船がしぼんでいくように、色をなくしていくのがわかってしまった。
暗がりの中で起きていたから、目が慣れてしまったのだ。そうに違いない。
「今日だけな。特別」
「とくべつでないと、してくれないの?」
(……う)
それはそれで、妙に的を得ていると言うか。いや何言ってんだ俺。
「とにかく、今日はもう寝よう、な? 俺も眠くなってきたし。イヴも眠いだろ?」
「ん……、うん。ねむい」
「よし」
くしゃり、と一度だけ金糸をかきまぜて。
するりと移動させた指で、前髪を持ち上げる。
触れたのはほんの一瞬。
それでも、離れて再び目が合ったときに、満足そうにおやすみなさいと呟かれて。
――心が満たされないわけは、なかった。
--------------
うっかり長い! なんだこれ! つーか普通に更新に使え私! でもこんな半ば時限式みたいなネタで更新ってどうなんだ!(頭抱え)
というわけでアニメ版黒猫の4話まで見た時点でぐるりと回したスヴェイヴ妄想でした。
ネタ的には確実に、原作が連載中にそこかしこで使いまわされまくった品だと思うんですが(当時ネット方面は回ってなかったのでよく知らない……)(本はまあその、3日目っぽいのを少々嗜んでいました)(ぽいのも何も)
アニメ版のスヴェンはなんつーかこうイイカンジに藤原テイストによるギャグキャラっぽさがいい味出してるなあと。
藤原氏の声でとても良い緩急を持ったヘタレキャラに成長したなあスヴェンというか。
とゆわけで半ばギャグ調のスヴェン+出会ったばかりなので半分感情幅が豊かでない状態のイヴをやりたかっただけでした。
……しかし5話見たらこれやらかしたの後悔しそうだなあ、例によって(笑)
某さん忙しいとこ本当ありがとうカタサユ頑張るから! 頑張るから本当!!(いやマジで頑張れ自分)
かすかな気配に続いたのは、己を呼ぶ静かで小さな声だった。
当人はさほど意識していないようだが、もともとハキハキ喋る娘ではないので自然と時間帯を慮った声量になったようだ、そう解釈する。
「どした、イヴ?」
細い両腕が抱えているのは枕だろうか。リンス提供のこの家屋には子供用のソレなどなく、その外見的には少女――下手をすれば幼女――の彼女が持つと、抱き枕のようにも見える。
とにかく、それを軽く抱きしめ、閉めたドアの前で佇む彼女は、訪問理由をぽそりと告げてきた。
「いっしょにねていい?」
「……は?」
予想だにしなかった言葉――いや予想はしたしたが単に冗談半分で考えてみただけの話であって、まさか現実のものになろうとはっていうかまともな返答ができないうちにすたすた近寄られてるじゃねーかって、
「ま、待ったイヴストップだストップ!」
勢いよく両手を彼女の方へ突き出すという、かなりのオーバーアクションを交えた意思表示は、無事に彼女へと伝達され理解し了解してくれたらしい。
半身を起こした状態で毛布をかぶっている自分から、僅か一メートルほどの場所で足を止めてくれた。
ドア付近には届かなかった月明かりが、彼女の姿を暗がりに浮かび上がらせる。
ぶかぶかのTシャツからのぞくすらりとした肢。月光に反射して白っぽく見える腰よりも長い金の髪。
くらりとした何かを感じたのは、たぶんその僅かなきらめきに目が眩んだせいに違いない。
「……だめ?」
そう、軽く小首なぞを傾げられる。
さらりと、肩にかかっていた金色の一房が滑り落ちた。
反応が遅れたのは、うっかりその流れる金糸を目で追ってしまったからで、不審というよりは不満、いやむしろ寂しそうな瞳から濡れたようなきらめきを遠慮がちに送られてしまったわけで、頭の中がさらに真っ白に塗りつぶされそうになるのを必死でこらえたからだ。
い……いかんいかん紳士たるもの女性の頼みは可能な限り無条件に応じること。落ち着け落ち着け無我の境地。
(……そう、だよな)
それは無意識に浮かんだフレーズではあったのだが。
イヴも「女性」には違いないのだ。
例え、人工的に作り出された、人間ではない、ナノテクの結晶だったとしても。
例え、外見が年端のいかない未成熟さを保っていても。
「スヴェン」
ドアのところで呼んだそれよりも、心なしか語調を強めて、回答を促されている。
互いの目線の位置関係上、必然ともいえる上目遣いを伴って。
「あー……」
オホンゲホンと、いかにもな咳払いを声で表現して霧散しかけていた威厳を纏い直す。そう、紳士たるもの人前で狼狽の様を晒してはならないのだ。
「今の部屋、気に入らないか? それともベッドか枕が合わなかったかな」
何度も言うようだが、子供用の品は一つとして無いのだ、この家は。
「そうじゃない。へいき」
程首を振りながらやんわりと否定するイヴ。
「そんじゃあ……怖い夢でも、見たか?」
少し迷ったあと、イヴはわからない、もう一度首を振った。
「ゆめはみたけど、どんなのだったかおぼえてない」
(……なるほど)
これで先ほどのイヴの言葉が理解できた。
見たけれど覚えていない夢。それに不安を掻き立てられたのだろう。
今、彼女にとっては未だ多くのものが、未知の存在として認識されていると思われた。
つい最近まで彼女の世界は、あのコルネオの屋敷と、彼が連れ回した社交場程度でしかなかったはずだ。
こうして唐突に広がった世界に不安を抱くなという方がおかしいし、そこに怯え――というよりは警戒、だろうか――てしまうのも無理はない。
(ない、が……)
そこで頼られるのはまあ正直嬉しいわけなんだがいやしかし。
ちらり、ともう一度イヴを観察した。
足の先から頭のてっぺんまで、何度見ようともそこにいるのは小さな少女でしかない。
その身体機能および構造が、人間のソレとは違っていたとしても、だ。
「スヴェンは、わたしがいると、めいわく……?」
「っそ、そんなことはないぞ!」
「じゃあ、いい?」
主語も目的語も省略して、繰り返される問いかけ。
省略したのは、それだけ焦れていると、繰り返す間も惜しいのだと、そう感じ取れなくもない。
現実逃避的に言葉の裏を探るような真似をすれば、の話だが。
「そうだリンス、リンスが居るだろ、アイツんとこなら」
「さっき行ったらスヴェンのところに行けって」
先手は打たれていたというか――そうか先ず最初にリンスの所に向かったのかイヴは賢い良い子だなあ――諦念が心に涙を流させる。
「それにリンスお酒くさい」
……いやまあ飲むなとは言わないが。理不尽な何かを感じてならないのは俺の気のせいか?
「それ言ったら、俺だって煙草臭いぞ、たぶん……ああいや、かなり」
くんくんと袖だの襟あたりを嗅いでみる。
自分では既に麻痺しているようなもので、どれほど臭うのだかはわからないが、体に染み付いてしまっているのは確かだ。つーか、そもそも呼気がヤニ臭いんだろうな。
うーむ、少しは控えた方がいいんだろうか。せめて、イヴの引き取り先だか行き先だかが決まるまでは。
そんな俺の態度から了承の意を感じ取ったのか(腹を括るしかないと理解したのは確かだった)、イヴはとことこと歩み寄ってくる。
ベッドに手をついて体を引き上げ、四つんばいでのしのしと近づいて。
「イ……」
制止の意をこめるべく声にした名前をさえぎるように、金の頭がするりと倒れこんできた。
鼻腔をくすぐるのは、自分も使ったボディーソープの匂いだった。けれど致命的に、己にまとわりつくソレとは何かが違う。
その違和感の正体を探る。
……ことに、逃げた。
(ああ、そうか)
これは彼女の香りなんだ。
そう、無意識の思考が回答にたどり着いた瞬間、
「スヴェンのにおい」
「はぃぁ?!」
まるで心を読まれた挙句意趣返しっぽくアレンジされたかのような――何故か安堵に満ちた呟き。
うろたえる自分を見上げるのは、やわらかな微笑みでこちらの襟足を掴んで見せている、少女。
「スヴェンのにおいだから、へいき」
「あー……そう」
かなり適当な相槌になってしまったのは仕方がない。
何せ頭がまともに回ってなかった。言うなればオーバーヒートというか。
いやむしろ現実逃避的に真っ白にならざるをえなかったというか。ビバ紳士本能。
擦り寄るようにして布団にもぐりこんできたイヴがシャツを何度か引いて、半身を起こした状態で固まった俺を早く寝ようと促す。
まだ半分ほど思考は停止したままだったが、体が自動的に、それこそ機械みたいに勝手に動いて――ひとつの枕に二つの頭は乗っからなかったので、俺の左腕が簡易枕へと変身した。イヴの能力に勝るとも劣らない変化っぷりだ。
ちなみに彼女が持参していた枕(翌日確認したら単なるクッションだった)がさりげなくベッドの近くで放置されていたことなど、このときの俺に気付けとかいう方が無理だ。ブラックキャットとサシで勝負して泣いて謝らせるとかぐらい無茶な無理かげんだ。
いやもう本当俺何やってるんだこんなとこリンスに見られたら何て言われるかっていうかいやもう知ってるのか、よし明日は早起き決定何事もなかったかのように朝メシ作って食って全部スルーしてみせる。それが紳士というものだ。
そのためには、
「おやすみ、スヴェン」
「……おやすみ、イヴ」
天使の囁きにどこまでも素直に従うのみ。
眠る眠れるぞ紳士だからな俺は! ていうかそもそも何を慌ててるんだろうな俺は!
まあそれはたぶん、この後に続く事態を発動させてもいない予見眼あたりが感じ取ってしまってたんだろうよ危機管理能力バッチリな俺ってイケてっかなー!!
……や、勿論わかってもらえてると思うがヤケだ。
「……スヴェン」
くいくいと、シャツの肩あたりが引かれる。
もう翌朝目覚めるまで絶対開かないぞと心に決めた目を、志半ばどころか最初の一歩で挫かれて、ゆっくりと開く。
(……なん、だ?)
懇願――だろうか。
未だ感情表現の幅が狭いその表情を、月明かりの中で正確に読み取るというのは、まあぶっちゃけ難しい。
じっと、少しだけ遠慮がちに、見上げてくる瞳。
ただそこだけに感情を伴わせて、イヴは言葉という形でのヒントを与えてくれなかった。
「あー……と。イヴ?」
ダメだ。わからないものはわからない。変に見栄を張ったところで、それは逆に彼女を傷つけることにしかならない気がする。
いや傷つけるというのは語弊があるか、がっかりさせてしまうというか……そう、期待を裏切ってしまいそうな。そんな予感がしていた。
「悪い。俺は万能なエスパーとかじゃないんで、できれば口で言ってくれると助かるなー、なんて」
途端、イヴの表情が僅かに曇るのをしっかり判別してしまった。
勝手に口が滑る。回る。紳士たるもの饒舌たれ。ああもう何でもアリだ紳士。
「ああいや、全然ちっとも全くこれっぽっちもわからないわけじゃないぞ?! そのだな、あー、そう! その方が多分すぐにイヴの希望に添えると思ってだな! うん」
俺に出来る範囲でなら――という条件つきではあるが。そこは言わぬが花だろう。
「……スヴェン、おやすみ」
「え。……ああ、おやすみ、イヴ」
いやなんつーか、言葉でなく態度で否定されるとゆーのはこうグッサリ来るものがあるなあちくしょう。まあ悪いのは俺だけどな! 不甲斐なくてごめんなイヴ!
このまま(心の中でだけでも)泣き寝入りしてやろうかと思ったのだが、
「……イヴ?」
本日二度目の就寝の挨拶を終えたはずのイヴは、何故か未だ自分を見つめたまま。
その瞳の真剣さからして、まず寝ようとかいう気配すらない。
「おやすみ、スヴェン」
「あ、ああ……おやすみ? というか、寝ない……のか?」
「だって、まだあいさつしてもらってない」
「挨拶? おやすみ……は、言ってるよな」
何か他に言い方とかあるんだろうか。
(まさか、コルネオが妙な合言葉みたいなのを仕込んでたとか言うんじゃないだろうな)
だとしたらお手上げだ。奴は目下行方不明の指名手配真っ最中。例え生きていたにしても、奴の胸糞悪いあの生業は続けられる状態ではないだろうから、隠遁生活を送らざるをえないはず。
つまり、一介の掃除屋が片手間に探せる相手ではなくなったということだ。
(くそ、リンスがぶっ飛ばしたデータの中に残ってたとか言わないよな)
どうすりゃいいんだ。
俺から「あいさつ」をもらわない限り寝れないと、イヴはそう言っているのだ。
(俺のせいで一晩中寝かせなかったとか、……字面だけでも問題がありすぎるぞそれ)
背中付近を冷たい汗が流れていく。打開策はないものか。あってたまるか。しかしそれでは紳士の名が廃る。
「……」
そうしてぐるぐると悩み続ける俺へ、彼女はいともあっさりと、切望していたそれを無造作に投げつけてきたのだ。
「おやすみのキス」
「……は?」
「スヴェンにおやすみのちゅーしてもらってから寝なさいねって。リンスが」
コルネオのとこではどーだったかは知らないけど、世間一般ではそれが普通だから。というかそういう決まりだから、守らないとだめよー?
イヴがろくに抑揚のない口調で、先ほどリンスの自室を訪れた際に言い聞かされたという、部屋の主の言葉を復唱してくれた。
その後しっかりと、リンス曰くの「世間一般の就寝時の挨拶」を言い出しっぺから施され――結果、イヴに酒臭いと言わしめた。とまあ、そういうわけだったらしい。
(……んのアマ、いっぺんシメる)
そもそも今回のことは奴が酒さえ飲んでいなければ起きることはなかったのではなかろうか。
よし、イヴと行動を共にする間は禁酒令を施行する。今決めた。
そうして今すぐにはぶつけられない数多の感情を握った拳に溜め込んでいると、
「スヴェン」
シャツの肩口を摘んだまま。
見上げてくる純粋な瞳に、罪などあるはずもなく。
「……わかった。わかったから。とりあえず離してくれ、シャツ」
「あ。ごめんなさい」
しゅん、と軽く俯いた金髪に、ぽふりと手を乗せる。上向いた目線を、逃げることなく受け止めた。
「あのなイヴ。酒飲みの言うことは信用しなくていい。ありゃ嘘だ」
「……うそなの?」
「まあ、そういう挨拶は確かにあるが、誰も彼もがやってるわけじゃない」
「スヴェンは、しないの?」
「……少なくとも、ここ最近はしてないな」
おやすみのキス――親が子供にする親愛表現。
こう見えても俺は独身だし無論隠し子だっていやしない。断じて。紳士だし。
「あー、だからその、何だ」
イヴの表情が、風船がしぼんでいくように、色をなくしていくのがわかってしまった。
暗がりの中で起きていたから、目が慣れてしまったのだ。そうに違いない。
「今日だけな。特別」
「とくべつでないと、してくれないの?」
(……う)
それはそれで、妙に的を得ていると言うか。いや何言ってんだ俺。
「とにかく、今日はもう寝よう、な? 俺も眠くなってきたし。イヴも眠いだろ?」
「ん……、うん。ねむい」
「よし」
くしゃり、と一度だけ金糸をかきまぜて。
するりと移動させた指で、前髪を持ち上げる。
触れたのはほんの一瞬。
それでも、離れて再び目が合ったときに、満足そうにおやすみなさいと呟かれて。
――心が満たされないわけは、なかった。
--------------
うっかり長い! なんだこれ! つーか普通に更新に使え私! でもこんな半ば時限式みたいなネタで更新ってどうなんだ!(頭抱え)
というわけでアニメ版黒猫の4話まで見た時点でぐるりと回したスヴェイヴ妄想でした。
ネタ的には確実に、原作が連載中にそこかしこで使いまわされまくった品だと思うんですが(当時ネット方面は回ってなかったのでよく知らない……)(本はまあその、3日目っぽいのを少々嗜んでいました)(ぽいのも何も)
アニメ版のスヴェンはなんつーかこうイイカンジに藤原テイストによるギャグキャラっぽさがいい味出してるなあと。
藤原氏の声でとても良い緩急を持ったヘタレキャラに成長したなあスヴェンというか。
とゆわけで半ばギャグ調のスヴェン+出会ったばかりなので半分感情幅が豊かでない状態のイヴをやりたかっただけでした。
……しかし5話見たらこれやらかしたの後悔しそうだなあ、例によって(笑)
某さん忙しいとこ本当ありがとうカタサユ頑張るから! 頑張るから本当!!(いやマジで頑張れ自分)
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