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日々是ダメ人間/雑記

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2010-07-08 べっ別にルカ(とクロア)の描き下ろしなんて期待なんかしてなかったんだからね!(血涙)<蒼天楽土 この日を編集

_ [ネタ文] fulfill wish(ロアルカ)

ED後ロアルカで一日遅れの時節柄的な何か。ふははダイバーズセラピの汎用性の高さばんじゃーい。


 夜遅くに叩かれたドアを開けると、頬を紅潮させた幼馴染みがぱっと顔をほころばせた。  ここまで走ってきたのだろうか、彼女は肩で息をしながら早口で言う。 「クロア! 少しでいいから時間ある?」 「あるけど、どうしたんだ?」  後半の問いには答えず、彼女はいきなりこちらの手を掴んだ。そのまま走り出そうとする。 「お、おい、ルカ!」 「早く早く! 時間がないんだから!」 「わかったから、戸締まりぐらいさせてくれ!」  盗られて困るようなものや金銭的備蓄がそれほどあるわけではないが、それでも開けっ放しで出て行くのは無用心すぎる。  ここはかつて「家族」と住んでいた場所とは違い、治安の面においては格段の差がある。だが、それでもだ。  渋々手を離してくれたルカが急かすままに、手早く施錠を済ませる。  振り向くとルカはその場で駆け足をしていて、こちらの顔を見るなり行くよ!と走り出した。慌てて後を追う。 「ルカ!」  呼びかけに振り向きもせず、ルカは夜のパスタリアを駆け抜けていく。  一体どこへ向かっているのかを聞こうとして、方向的に思い当たるものがあった。走り続ける後ろ姿に問いかける。 「ラクシャクか?」 「うん、そう!」  やはり振り向かずに、けれどルカは大きく頷いた。  それがわかれば、もう後ろにぴったりくっついている必要もない。  歩幅を大きくしてルカに並ぶと、何も言わずその手を掴んだ。さらにスピードを上げて、ルカを引っ張る形で走り続ける――向かう先は、市民空港。  ルカが急ぐ理由も当然だった。  下手をすると、今日の――ラクシャクからパスタリアへ戻る――最終便に間に合わないかもしれない。

*****

 ラクシャクに着いてルカが向かった先はダイブ屋だった。そういえば、今日のルカの予定は丸一日ダイバーズセラピだったか。 「ごめんゲンさん遅くなっちゃって!」 「おっ来たなルカちゃん、準備はできてるぜ!」 「ありがとっ!」  ダイブ屋の店先でノリ良く会話をする二人に置いていかれつつ、空港駅から走り通したせいで乱れた呼吸を整える。  店内には客はいない。周辺の店も、夜間営業店以外はとっくに閉まっている時間だ。 「クロア、早くそっちに入って!」  ダイブマシンを自ら調整し始めたルカから鋭い声が飛ぶ。  指示に従いながら――ようやくの疑問を口にした。 「……一体何なんだ?」  答えを期待していなかったそれに反応してくれたのは、手際良くマシンを設定していくセラピストのおかげで暇を持て余している店主だった。  ニヤリと笑った彼は、思わせぶりに言う。 「まあ、入ってのお楽しみだ」


 目を開けると、そこはいつもの草原だった。  ただし時間帯は昼ではなく夜になっていて、空には星が瞬いている。  すぐ近くにぼんやりとした灯りが点っており、そこには普段の膝枕主体のセラピでは見当たらないものがいくつか置かれていた。  まず目に付くのが、簡易テーブルと一脚の椅子。  テーブルの上には周囲を幻想的に照らすランプと、筆記用具、カラフルなメモ用紙が置かれている。  そしてテーブルのすぐ側に、見慣れない植物。  中でも目を引くのは、伸びて垂れ下がった植物の葉(なのか茎なのか)にいくつも括り付けられた長方形の紙だ。近づいてみると、その紙はテーブルの上のメモ用紙だとわかる。 「いらっしゃいクロア!」  声に振り向くと、普段と変わらぬ格好のルカが立っていた。 「はい、じゃあここ座って!」  引いてくれた椅子に腰掛けて、今度こそ当人に疑問をぶつけた。 「なあルカ。これは一体何なんだ?」 「えへへ。知りたい?」 「ああ、知りたい」 「んー、どうしよっかなー」  もったいつけてそう言ってから、ルカは冗談とばかりににっこりと笑った。  そしてにこにこ顔のまま、筆記用具とメモ用紙を一つずつ渡してくる。 「この紙ね、短冊って言うんだけど、まずはこれに願い事を描いて。書き終わったら説明してあげる」  押し切られる形でそれらを受け取る。  わけがわからないまま、とりあえずペンのキャップを外した。それから長方形の紙面と向かい合い――思ったままを呟く。 「……いきなり願い事って言われてもな……」 「何でもいいんだよっ? おいしいもの食べたいとかー、お金持ちになりたいとか!」 「仕事柄そのあたりに不満はないんだが……」  基本的に自分の詰め先は大鐘堂であり、食事は大鐘堂内の食堂を利用することが多いため、味だけなら平均以上のものを食べていると思う。  騎士隊の給金にしても、危険手当的な意味もあり決して低くはない金額が支給されている。  ……いやまあ、彼女との年収差が今後どう足掻いても反転しそうにないことについては、多少なりとも気にしてはいるんだが。  ともあれ。  願い事――つまり「こうであったらいいのに」と思うことは、あるにはある。 (あるんだが……)  ペンを走らせようとして――胸を張って堂々と主張できるものでもないか、と思い直し――、止める。 (それに、当人を前にして書くことでもないよな……)  どうしたものかと視線をさ迷わせると、謎の植物につり下げられた紙片が目に入った。  短冊というのだったか、カラフルな紙面にはさまざまな筆跡で願い事らしき文面が記されている。どれも見たことのない筆跡のそれらは、自分以外の――ダイバーズセラピの客達が書いていったものだろうか。 「これね、今日セラピに来てくれた人達みんなに書いてもらってるんだよっ。ホントは他のお客さんのことは見せるべきじゃないんだけど、今日だけだし、名前とか書かないでもらったから大丈夫かなって。一応みんなに口止めもしてあるしね」 「そうなのか」 「クロア、書くこと迷ってるなら、参考に見てみたらどうかな? あ、もちろんクロアも、このことは誰にも言ったらダメだからね」  ルカがそう言うなら、遠慮なく見させてもらおう。  先程ルカが挙げた例がそのまま書いてあるものもあったが、家族が健康に過ごせますように、といった家内安全的なものから、騎士隊試験に合格できますように、という神頼み的なものまで様々だ。  一通り見させてもらってから、自分の分の短冊に目を落とす。 (……)  どんなに考えてみても、これといったものが浮かんでこない。  延々考え続けている自分に、ルカは呆れたように言った。 「クロア、そんな難しく考えなくてもいいんだけど……。うーん、あまりゲンさんに残業してもらうのも悪いし……先に説明しちゃおうかな」  ぶつぶつと呟いて、ルカははい注目、と謎の植物の横に立った。  続いて、植物の影から厚紙の束を取り出した。一枚一枚に絵が描いてあるそれは、どうやら紙芝居のようだ。 「えっと、時間がないからダイジェストでやるね。……むかしむかし、あるところに――」  ルカの話はこうだ。  これはどこかの世界で行われている「七夕」という行事の一環であるらしい。  「七夕」の日は離ればなれになった恋人が年に一度会える日で、そのついでで願い事も叶えてくれるのだという。……何とも気前のいい話だ。  おそらくは、ダイバーズセラピの参考にと読んだ本にでも書いてあった内容なのだろう。  どこか身も蓋もない話にしか聞こえないのは、ダイジェストで説明されたせいだと信じたい。 「だからクロア、そんな深く考えなくてもいいんだよ? ほら、新年の目標っぽくとりあえず大きく出ておいてもいいし」 「いや、そういう目標の立て方もダメだろ」  思わずツッコんでしまってから、ふと思いついて、聞いてみる。 「ルカは書いたのか? 願い事」  また他人のことばかりで自分のことは考えてないのでは――と思ったのだが、それは杞憂だったらしい。 「もちろん書いたよ。えっとね……私のはこれ!」  ルカの手が吊り下げられた短冊の中から一つを示す――『メタ・ファルスのみんなが幸せになりますように』。 「え、えへへ。ありきたりかなって思ったけど、やっぱりこれかなって……」 「……そうだな」  そうだ――彼女は人気ダイバーズセラピストであり歌手でもあり、そして何よりも焔の御子なのだ。  今更過ぎる現実の再認に、ますます書くことが浮かばなくなってしまった。 「ほらクロア、早く早く。ゲンさんが帰るの遅くなっちゃうし」 「あ、ああ……」  しかし焦れば焦るほど――自分と彼女の立場を考えれば考えるほど、頭の中は何も浮かんでこなくなる。  特に、先程一つだけ思いついた願い事などは、一介の騎士にすぎない自分が願うべきことではないのではないか。  そう考えていたところに、ルカの指摘が舞い込んだ。 「そういえばクロア、さっき何か書こうとしてなかった?」  ぎくり、心臓が鷲掴みにされた心地がした。  浮かれていると言っても差し支えないほどに機嫌良くしていたし、こちらの手元まで注視はしていないだろうと思っていたんだが……見られていたのか。  沈黙を肯定と受け取ったらしく、ルカはさあさあと急かしてきた。 「それでいいよ。それ書いて」 「……いや、でも」 「もー、いいから書いて! 書かないと……ひどいことするよ? 例えば、クロアの精神に、明日一日起き上がれなくなる程度のショックを与えるとか」  それは犯罪じゃないのかとツッコミたかったが、ルカの目はわりと真剣――というか、据わっている。  確かに、こんなことでゲンさんに迷惑をかけるのも申し訳ない。 「……」  一度のため息で全てを諦めて、なるべくルカの目から隠すようにして短冊に書き付ける。 「書けた?」  貸して、とルカの手が差し出される。 「いや自分で……」 「いいから!」  半ばむしり取られるようにして、ルカに短冊が奪われた。 「さーてと、クロアくんのお願い事は何かな~」  茶化したように言って、短冊を見たルカの動きがぴたりと止まった。  やはり適当に「健康第一」とでも書いておくべきだった――後悔したところで遅すぎる。 「……その、個人的な願望すぎて申し訳ないんだが……」  先程見させてもらった短冊のほとんどは、真面目な願い事がほとんどだった。  自分のような、個人的な、何かがだだ漏れしているような内容はなかったはずだ。――『ルカとずっと一緒にいられますように』、なんて。  見れば、ルカは無言のまま僅かに肩を震わせている。  あまりにも欲望丸出しな文面に、呆れを通り越して笑いを堪えているのかもしれない。やはり書くんじゃなかった。 「――あのね、クロア」  ルカの声は少し震えていた。  顔もやや俯きがちのまま――ごそごそとテーブルの裏から何かを取り出した。 「わっ私も、本当はもう一枚、書いてあって……」  差し出されたのは、先程奪われた自分の短冊と、それとは別のもう一枚。 「さっきのはお仕事用で、私個人のやつはこっち、なんだけど……」  それぞれの短冊の文面と、顔を俯けたままのルカとを交互に見て、ようやく理解した。  ルカが顔を真っ赤にしているのは、笑いを堪えた結果ではないのだ、ということを。 「……ルカ」  自分の分の短冊だけを受け取って、そっと抱いたルカの肩を優しく押してやる。 「ゲンさんを待たせすぎてるし、早く付けよう」 「……うん」  そうして、謎の植物――笹、と言うらしい――には、ほぼ同じ文面の短冊が、他の短冊から隠れるように並べて結ばれた。

*****

 延長で営業してくれたゲンさんに礼を言い、空港まで走るとギリギリでパスタリア行きの最終便に間に合った。  ほとんど客のいない飛空艇から、小さくなっていくラクシャクの街を二人で見下ろす。 「はぁ……間に合って良かったぁ……」 「……その、ごめん」 「えっ、あ、ううん、いいの! わ、私も呼びに行くの遅かったし……」  二人で明後日の方向を向いて適度に譲り合う。  ついでにざっと客室内を確認すると、他の数名の乗客は寝ているか何かを読んでいるかしていて、自分達を気にしているような素振りはなかった。  今はプライベートとはいえ、ルカが要人であることには変わりない。直接的な被害がなかったとしても、おかしな風聞を流されても困るのだ。  一応、ルカを隠すようにさり気なく立ち位置を変えておく。  すると、何故かルカも移動した――ぴたりと自分に寄り添うように。 「お、おいルカ」  こちらの意図に気付いているのかいないのか、ルカは小声で咎めるのも構わずえへへ、と笑うばかりだった。仕方なく、引き剥がそうと上げた腕を静かに下ろす。  ルカはラクシャクがほとんど見えなくなった窓の外を見つめて、ぽつりと呟いた。 「明日からまた頑張らなくっちゃね」 「そうだな」 「それに……さっきの短冊って、お話の中だったら彦星と織姫が叶えてくれるんだろうけど、あの空間を作ったのは私だから、私が叶えないといけないしねっ」 「……大丈夫なのか?」  てっきり、何かのお祭り的なイベント――叶わないとわかった上で楽しむもの――とばかり思っていたんだが。 「もちろん、私にできる範囲内で、だけどね。みんなにも「絶対叶うっていう保証はないです」って説明しておいたし」  でも、とルカは続けた。 「家族が健康にすごせますように、とかそういうのって、御子が政治的に頑張れば叶えられる面もあると思うんだ。ほらえっと、病院とか整備したり、保証制度作ったりして」  指折り数えて挙げていく内容は、先日の会議で問題点として示されたものを含んでいる。 (……ああ)  こんな時に、思うのだ。 「難しいことはクローシェ様に頼り切りだけど、私も頑張って支えて行かなきゃ」  ――彼女は紛う事なき、焔の御子であるのだと。 「……」  一瞬躊躇してから、寄り添ったその頭にそっと手を乗せる。  見上げてくる顔に、やはり一瞬だけ躊躇った後、目を合わせる。ルカはえへへと照れ臭そうに笑った。  この笑顔をこれからも護れたらいいと、そう思う。  そして、考える。  自分に出来ることは何だろうか。  御子室付きとはいえ、一介の騎士でしかない、自分に―― 「俺も頑張らないとな」 「え?」 「その、願いを叶えてもらえるのは嬉しいけど、他力本願ばかりってのもどうかと思うし」  男として、相手に何かしてもらうばかりというのは、さすがに立場がない気がする。  だから、位置的に誰からも見えないことを確認してから、 「……それに」  ルカの手をぎゅっと握り、その耳元に囁く。 「俺とルカの願い事は、二人で叶えるものだと思うから」  続けるべき言葉をあえて飲み込んで、大きく見開かれた瞳を覗き込む。  一瞬の間を置いて、その頬を僅かに染めて、 「……うん。頑張ろうね、クロア!」  ルカは満面の笑みを見せてくれた。


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 去年の今頃に書き付けたものの微妙すぎると思って放置してあったのを勢い余ってリサイクルしたらますます微妙なことになったというオチでしたサーセン。
 一日遅れたのはまあその何だ……どこぞの公式が毎度毎度全力投球すぎるから釣られざるを得ないとかそんな感じでしたマジすまんかった土下座。


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