2008-11-24 書籍化したら本気出す(……)
_ [ネタ文] Aah diddums!(ルクティア)
うっかりるくちあに飢えたのと、ファイル整理してたら発掘したので放置。ED後ルクティア。場所とかは深く考えない方向で。
ソファにだらりと体を投げ出して、背もたれに首をもたせかけ、視線をぼんやりと上に。天井の模様が判別できそうでできない、そんな曖昧な視界を保つことに成功してようやく、軽く息を吐いた。 ――つもりだったのに、はあ、という呼気音はひどく重苦しい。 (……あー、……) くそ、と心中で毒づこうとして、踏みとどまる。誰にも聞かれることはないはずだが、それでも、嫌悪感を示すような真似はしてはならない、すればきっと伝わってしまう――そんな気がしていた。 もうどんな内容だったか覚えてない夢。ほんの数分前に見たばかりなのに、全く思い出せなかった。否、明確に思い出すことが恐ろしくて、手をこまねいているうちに記憶から霧散してしまったのだ。 ただとりあえず、それは「悪夢」と呼べる類の内容だった、その強烈な印象だけを残して。 (別に、この前にも見たんだし、あん時はもっと色々覚えてたし) だから今回は随分とマシだ――と思いかけて、強引に思考ごと停止させた。 今何かを考えてはダメだ、と判断できたのは経験則に他ならない。何度も繰り返して、幾度か失敗する中で見出した最良とおぼしき手法。 落ち着いて、冷静になって考えてみれば、驚くぐらいに前向きな思考を取り戻せる。失敗をより良い何かへ繋げるための足がかりに変えることができる。 今の自分はまだまだへたれでダメな所も多いのだろうがそれでも、そのことを――やり方によっては、こんな自分でもうまくやれることを――知ってはいるのだ。 それを知ることができたのは、いつでも自分を見捨てられると釘を刺しながら、ずっと見ていてくれた人がいたから。 その人にまたへたれている所を見られて幻滅されたくはない。だから、とにかく今は何も考えないように、悪いことを考えないように、自分が在るべき姿をイメージできるようになるまで―― 「ルーク?」 急に目の前に何かが割り込んできた。驚いてソファからずり落ちそうになりながら、それが彼女の白い手のひらだと理解する。 自分をずっと見ていると約束をして、それを守り続けてくれたティア。普段は手袋に覆われたその指先を、ひらひらと目の前で振られていたらしい。 「どうかしたの? 何度か声をかけたのに返事がないから」 寝ているのかと思ったら目は開いているし、と驚かせてしまったことを詫びるように続けるティアを遮った。 「あ……その、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」 「本当に大丈夫?」 心配そうに覗き込んでくる瞳を、今は直視できる自信がなかった。まだ心は動揺したままで、落ち着いたとは言い難い。 何よりティアの登場で、心の平静を保とうとするのがまず困難すぎた。風呂上がりの彼女は、正直目に毒というか思考が別の方向へ飛びそうというか、とにかく冷静になれるはずがないのだ。 「へ、平気だっつの」 あからさまに目を逸らしながら言えば、誰だって疑いたくもなるだろう。それがわかっていながら、そうするしかできない自分が腹立たしくもあり、情けなくもあった。 しばらくティアは黙ったままでいたが、そのうちすとん、とソファに座った。 位置は当然自分の隣。他に空いてる場所なんかないから、仕方ないといえば仕方ない。でも別にこんな密着体勢でなくたっていいはずだった。 「ルーク」 芯の通った声が名前を呼ぶ。その声色に、逃げられない、と悟った。 小さく深呼吸をしてから、背けがちだった首の位置を時間をかけて元に戻していく。 アイスブルーの瞳と目が合う。透き通った二つのそれが一度伏せられ、次に開いたときには軽く眉を吊り上がらせていて――なんつーか降伏宣言でもしないといけない心地になってきた。 「何かあったんでしょう?」 そう優しく問いかける中に、鋭い何かが混じっている。 嘘も誤魔化しも通用しないから白状しろと首筋にナイフをつきつけられたような、そんな物騒な錯覚を抱きながら、自分も一度だけ目を閉じた。覚悟をつけるために。 するべき覚悟は様々あったけれど、中でも一番の覚悟は、ティアに呆れられたり幻滅されたりしても、あまりショックを受けないように――というものだったりした。 そうして目を開けてみればティアはずっと自分を見たままだったようで、改めて目を合わせる羽目になった。やっぱり面と向かって言うのはキツい、そう思う。 「……ちぇ。お見通しってやつか」 「あなたがわかりやすすぎるのよ」 頭を掻いて苦笑するふりをしながら、さり気なく目線を下方へとずらしていく。 全てを見透かすような透明度の高い青色が見えなくなってから、いつの間にか重くなっていた口をしっかりと開いた。 「少し、夢見が悪くってさ。っても、どんなんだったか全然覚えてねーんだけど」 何でもないことのように、声のトーンを努めて高くしながら、声音が震えないよう一息で言い切った。 言い終えて、まだ何か付け加えることはないかと考えたが、何も出てこなかった。考えてもぱらぱらと霧散していってまとまらない。 そのまま口を閉じて、顔が上げられなくなった。どんな顔をすればいいのかわからなかったから。 「……そう」 ティアは短く相槌を打つと、それきり何も言わなかった。 正直それは有難かった。表情だけでなく、何かを言われてどう返答すればいいのかもわからなくなっていたから。半ば混乱してたといっていい。 頭の中がぐちゃぐちゃになっていて、自力で収拾がつけられそうになかった。 たぶんそのうちティアは呆れるか何かして、自室に戻ってくれるだろう。 そう、何も言うことがないとわかれば、隣に座っている必要がないのだから、合理主義のティアは自分を置いて引き上げるはずなのだ。 昔はそれを「冷血」と思っていたけれど、今は違うとわかる。 軍人によくある「物事を進めるにあたっての効率的な考え方」というやつが染みついているだけなのだ、ティアは。 そして今、それを有難いと思う自分がいる。つくづく、ティアが側にいてくれて良かったと思う。冷たくされるぐらいが丁度良いのだ、きっと。 す、と何かが動く気配がした。 ああようやくティアは見切りをつけてくれたんだと内心ほっとしながらどこか痛みを感じていると、頭上に優しい衝撃が降ってきた。 (……え) それは一瞬戸惑うような動きを見せてから、ゆるゆるとした前後運動を始める。 今自分の頭の上にあるのは、おそらくたぶんきっと、先ほど目の前で振られていた白い手のひら。 (なんっ……で、っつーか!) 勢いよく顔を上げる。というか仰け反る勢いで頭を後方へと振り上げた。おかげで、そこにあったものは引っ込めてもらえたようだった。 しかし頭頂には慣れない感触がじんわりと残っている。それすら振り払うように、首の位置を慌てて真正面に戻して、それからそろそろと横を向く。 どこかきょとん、とした表情のティアが、自分を凝視していた。 怒っているとかそういった感情が見当たらないことに安堵しつつ、奇行の弁解に移る。 「な、なにすんだい、いきなりっ」 「嫌だった?」 心底嫌というわけではないのだがかといって嬉しいと言われたらそうとは断言しずらいというか何故って恥ずかしいっつーか何なのか、まあとにかくよくわからなく、顔面の温度が急上昇する。 「い、嫌っつーか、そんなんじゃねーけど、……が、ガキじゃねーんだしっ」 ティアの大きな瞳が一つ瞬きして、おかしそうに細められた。 「この前、自分はまだ十歳児とか言っていたのは誰だったかしら」 「ぅぐ」 以前ちょっと卑屈にかられてそんなことを口走った覚えは確かにあった。あったけれど何で覚えてんだそんなことをいちいち忘れてくれていいのにっつーか忘れろよなそういうのは! 言葉に詰まった自分を見てくすくす笑い出したティアに、居たたまれ無さとか貯まり貯まっていたその他諸々が膨れあがって暴発した。 まあつまり、かちん、と来たわけだ。(後になって考えてみると、これは照れ隠しの一環だったのだ。情けないことに。) 無言で手を伸ばし、すぐ隣に座っているティアの手首を掴んで引っ張った。 簡単に傾いだ体を支えるように、もう片方の手で肩を抱き寄せて固定して、そのまま有無を言わせず唇を塞ぐ。 何かを言おうとしていた半開きの口に躊躇なく舌を押し入らせて、ティアのそれへと絡ませた。 「んぅっ、ぅく……!」 上から押し付けるような形の乱暴な行為に、ティアからの――応じる、という意志をもった――反応は何も返ってこない。拒否するような動きを感じ、逃がすかよ、と心中で呟いた。 そうして有言実行を実践していると、やがて力負けするばかりと悟ったのか、単に力尽きたのか、何の反抗もなくなった。しばらく本能に任せて咥内を貪ってから、ゆっくりと唇を放す。 新鮮な空気を取り入れながら、自然と閉じていた目を開く。 ティアの瞳はまだ焦点が合っていない風で、そのことに深く安堵して――しかしいつ平手だの体術だのが返ってくるかわからないので、そそくさとティアの両手首を掴み直して反撃を防いでみた。 そうして安心してようやく、思考が正常に稼働し始めた。 (――い、勢いで何やってんだアホか俺――! こ……これでキレるんならまだいいけど、……も、もし泣かれたりしたらどーにもなんねー……) 物凄い後悔の嵐に襲われつつ、まだ正気じゃないっぽい今のうちに何か言っておいた方がいいだろうと判断した。 それが正しいかどうかはもう二の次で、やらないよりはマシの精神で口を開く。 「が……ガキはこんなキスしたりしねーっつの」 最後の方は尻すぼみになりながらの駄目すぎる言い訳。 (うわなんかもう俺とりあえず最悪すぎじゃねーかそれー!) だんだんと焦点が合ってきたティアの出方を、最終宣告を受ける死刑囚の心地で待つ。 どこか戸惑うような表情を見せたティアは、おそらくは息苦しさで赤くなったであろう頬の赤味を、何故か僅かに増量させてから、 「ばか」 などと小さく呟いて俯いてみたりした。 (……怒って、ない……のか?) しばらく待ってみても何の反論もなく、どうやらティアの非難はこれで終了らしかった。 良かった、とどうしようもない安堵に包まれたのも束の間、目の前のよくわからないが無駄に可愛い仕草を見せる相手に全く別次元の感情が働きかけてさすがにそれはいくらなんでも最低すぎるだろうと己を叱咤し、 「ご……ごめん」 気が付けば自分は謝罪の言葉を述べていたりした。 それは先ほど強引なことしてごめん、という意味と、さらにその上で不埒なことを考えかけて本当にごめんという二重の意味がかかっていたのだが、もちろんティアにそれが伝わるわけはない。伝わられても困るが。 「……謝るぐらいならやらないで欲しいわ」 ぽそりと呟かれた言葉は思った以上に心を抉ってくれた。 確かに自分は最低すぎる。そんな、したところで遅すぎる後悔が脳内を駆けめぐる。 「ごめん……」 結局はこうなるのだった。何をしても謝罪で終わる。がっくりと頭を垂れながらそう思った。 たぶん一生ティアには頭が上がらないんじゃないだろうか。いや上がるなんて可能性自体を考えたことがないけども。 「……もう」 小さくため息なぞがつかれた。さらに萎縮する心地で、頭の位置もさらに下がった。 「ほんとうにばかなんだから」
――ふわり、と触れてきたのは先ほども感じた優しいてのひらで。
子供にするそれみたいに、ゆるく撫でられる。
湧き起こる、「僅か」という言葉では収まりきらない嬉しさを潔く認める。 けれど今は反省しないといけないところだ。 そう――
とにかく自分は最低な奴で本当にごめんティアなのにこんなへたれな自分を許してくれてるっぽいティア本当にありがとう大好きだってなんか思いっきり抱きしめたくなってきたけどいやだからそういうのを反省してるところなんだっつの今!
そんなまとまりきらない思考を抱えながら――今だけならガキでもいいかもとか思ったり、すぐさまその考えを振り払ったりしつつ――結局、しばらくの間されるがままになっておいた。
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相変わらずオチない話ですいません。 ファイルの日付見たら2年ぐらい前でよく覚えてないんですが、たぶん頭なでこされるるくたんが書きたかっただけなんだとおもいます。
あとほんといいかげん自分は悪夢ネタ自重(ワンパの帝王でマジすいませ……) つーかるくちあもやりたいと言いながらどれくらい経つんだ……! いっそ2周目(ええまだ2周目やれてませんが何か!)とかやってやりたい。 ……ロードレス版アビスとか出ないかなあ(まだ言うか)