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日々是ダメ人間/雑記

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2009-07-20 ニコルかわいいよニコル

_ [ネタ文] thrust program(ロアルカ)

ED後ロアルカ。宿題その3ぐらい。


「ふうん、それで?」  洒落たデザートグラスに盛られた大量の生クリーム――その正体は生クリームで過剰なトッピングを施されたプリン・ア・ラ・モードだ――から抜き取ったスプーンを口にくわえて、空猫はふんふんと頷いた。  客足が途絶えた店内の一角、ウェイトレスの制服のままテーブルに座る彼女の対面には、ちびちびとオレンジジュースを飲んでいる少女がいた。彼女の親友、ルカ・トゥルーリーワースである。  もはや恒例となりつつあるお悩み相談(という名の愚痴&惚気大会、当人にその自覚がないのが一番悩ましい)に、空猫は呆れながらも付き合っているのだった。 「……そんな感じで、全然普段と変わらないっていうか、私ばっかりオタオタしてただけっていうか……」 「なるほどねえ」  目に浮かぶようだわ、と口の中でもごもご呟いて、空猫はさらに生クリームをすくって口に運ぶ。 「まあ向こうとしてはそんな先輩が可愛くてしかたなかっただけだと思うんだけど」 「……もー、空猫はそればっかり。それは違うよ」 「どうして違うって言えるの?」 「だ、だって……それならもっとこう、……色々と……」  再びもじもじ口籠もってオレンジジュースをすすり始めた親友に、空猫はあからさまにため息をついてやった。  彼女の悩みとは、自分の方が一つ年上なのだからポジション的には姉のはずだとか、もっと自分を頼って甘えてくれてもいいのにとか――彼女なりの気遣いと願望が入り交じったところに生来のドジっ子属性が作用して化学変化が起こり明後日の方向へと暴走してはうまくいかないと嘆いている、まあ要するに自覚なき自業自得とでも言うべきものだ。 (そういうところがまた可愛いのよね、先輩は)  その悩みから要点、というか彼女の要望だけを抽出するならば、「彼氏よりも優位に立ちたい」、この一点に集約される。  空猫が思うに、二人――ルカとその彼氏――は火と油のような関係である。  彼氏は火であり、小さく静かに燃え続ける種火のようなもの。それを無造作に煽る油がルカだ。  油がどんなに頑張ったところで、火の勢いを弱めることはできない。それなのに、彼女は頑張ればどうにかなるはず――なって欲しい――そう根拠もなく信じて日々特攻しては玉砕している。少なくとも空猫の目にはそう見える。  無駄な努力だから諦めろと言うのは簡単なことだ。だがどんなに説得してもルカが納得しないであろうことは、親友である空猫にはよくわかっていた。  だったら、先輩が納得するまで応援するしかないわよね――というのが、友愛(時に逸脱気味)を極めた空猫の結論であった。 「わかったわ。先輩に新たな奥義を伝授する時が来たようね」  ゆらりと立ち上がった空猫の耳には、奥義って……と半ば引き気味に呟くルカの声は届かない(聞こえないフリとも言う)。 「さ、先輩も立って」 「う、うん」  言われるままにイスから立ち上がったルカを、テーブルから少し離れたところへ誘導する。  空猫は棒立ちになったルカの真後ろへ立つと、おもむろに一歩前へと踏み出し、ルカの背に覆い被さった。 「わっ、ちょっ」 「あっ動いちゃダメよ先輩、そのまま!」 「そ、そのままって言われても……」  重くはないが軽くもない、絶妙の力加減がルカの背を襲う。  ルカは言われたとおりその場に踏ん張りながら、居心地悪そうに視線をさ迷わせ、やがてぽそぽそと申し訳なさそうに主張した。 「あ、あの空猫、背中……」 「あら気付いてくれたのね」 「……気付かない方がおかしいよぅ……」  きらん、とかけてもいないエア眼鏡を輝かせ(るフリをし)ながら、空猫は自信たっぷりに言い放った。 「だがここであえて言わせてもらうわ、あててんのよ、と!」 「えぇっ!?」  背後にべったりと取り憑いた空猫の勢いに押されたのか、または本能的に何かを察知したのか、ルカが反射的に一歩前へと飛び出しかけ、それを押さえ込むように空猫が羽交い絞めにかかった。 「あん、もうダメじゃない先輩ったら動かないでって言ったでしょ?」 「だ、だって!!」 「別に取って食ったりはしないから安心してってば。で、これこそが奥義「あててんのよ」なんだけど――」  羽交い絞めにされた上に背中へボリューミーな胸を押し付けられ、ルカはじたじたともがいた。  そんな親友をそのままに、空猫は流暢に語り上げていく。 「つまり、こうして脈絡なく胸を押し付けることで相手の動揺を誘うのよ。ちなみに、これはさり気なく偶発的に起こったかのように行う方が効果が高いわ。何でだかわかる?」 「え? ええと……」 「ブブー、時間切れよ先輩!」  三秒と待たずに断言し、空猫はさらにぎゅうむと抱きついた。 「偶然の事故という役得感に浸っているところへ、さらにそれが意図的であったことを告げて倍率ドン! さらに倍! って寸法なのよ!」 「空猫、あまりよく意味がわからないんだけど……」 「だから、わざと胸を当ててるってことは誘ってるってことでしょ? こんなあからさまな誘われ方をして喜ばない男はいないと思うわ! 私ならイチコロね! とりあえず昇天状態に陥るわ!」 「空猫は男の人じゃないし、そんなことで昇天されても困るんだけど……」  親友が話を聞かないことはルカも心得ているので、それ以上はツッコまずに小さくため息をついた。 「空猫の言いたいことはなんとなくわかったけど、でも私には無理だよ」 「あらどうして?」 「……だって、私のじゃ足りないと思うし」  沈んだ視線の先には、ルカのささやかかつ緩やかな膨らみがある。  そんなルカの視界に、ちっちっちっ、と空猫の指が左右に振られた。 「甘い……甘いわ先輩! 特製まかないプリン・ア・ラ・モードよりも甘いわ!!」 「プリン・ア・ラ・モードっていうか単なる生クリーム丼だよね、あれ。太っちゃうよ? 本当に」 「しっかり働いた後はガッツリ甘いものを摂取しなくちゃ。とにかく、先輩? その考えは甘いわ」  後ろから抱きついたまま、器用にビシィ、と指をさす空猫から、ルカは微妙に顔の位置をずらした。 「いい? 女の胸というのはね、大きさに関係なく柔らかいものよ。あ、第二次性徴前の小さい子は除くけど」  半信半疑なルカの顔へさらに指を突きつけなおしながら(さらにルカは避けながら)、空猫の主張は続く。 「つまり、大きかろうと小さかろうと、背中にこうしてぴったりとくっついた時に柔らかさを感じたら、それは胸が押し当てられていると判別できる。ここまではいい?」 「う、うん……」  そんなの当たり前じゃない、という言葉を飲み込んで、ルカは渋々頷いた。 「でもね先輩。この奥義において重要なのはね、どれだけ柔らかいかとかそういうことじゃないの――」  勿体ぶって間を置いてから、空猫は高らかに宣言した。 「この奥義でもって相手が動揺する最大の要因は、意図的に胸をあててきているという事実でしかないの! そこに大きさなんて関係ないわ!!」  まるで歌い上げるような――しかし強引さは否めない――弁証に、ルカはすっかり呑まれてしまっていた。 「そ、そうなの……かなあ」 「そうよ先輩。いい? 「好きな相手から大胆に誘われている」っていう事実に男はよろめくものなのよ」  ルカの中で「そうなのかな」が「そうかも」「そうだよね」と三段活用を見せるまでに、それほど時間はかからなかった。

*****

 その日の夜、意気揚々とルカは目的の部屋を訪問した。  明日の会議で使う資料と持ち歌の譜面を持参し、不審がられることなく室内への潜入に成功。  相手には資料を渡し、自分は勧められたベッドに腰掛けて譜面を開く。  歌の練習を邪魔しないようにと、相手は何か話しかけることはせず、資料を読むことに集中し始めたようだった。 (……状況よし)  ルカはそっと上着のボタンを外して腕を引き抜き、座っていたベッドの上へと落とした。  奥義伝授時のアドバイスの一つ、少しでも柔らかさを伝えるための策である(ちなみに、ヒールのついた靴は疲れちゃったから脱いじゃえ、とベッドに座った時点で脱ぎ捨ててある)。  そうして静かに深呼吸を済ませ、心の準備も終えた。 (――これで完璧、だよね?)  そう判断して、ルカはベッドから立ち上がった。  そろそろと書類を読む背中に近づいていき、小さく喉を鳴らしてから――素早くしゃがみ込み、伸ばした腕を首に絡ませていく。 「――ルカ?」  どうしたんだ、の意味を込めた呼びかけには応じずに、ルカは無言のまま相手の背中にしなだれかかった。  意識して胸を前に突き出すようにして、ゆっくりと体重をかけていく。 「……ね、クロア」  吐息混じりに相手の名前を呼んで、耳元にそっと息を吹きかけるべくさらに体を前に倒す。 (こ、これなら……っ!)  大きくはないが全くないわけではない自身の胸が押し潰される感触に、ルカは僅かながら手応えのようなものを感じていた。
 ――いい? 相手に何が起こっているか理解させちゃダメよ。何がなんだかわからないうちに畳み込んで、自分のペースに巻き込むの!
 親友の言葉がルカの脳内を駆けめぐる。  できる限り色っぽくね、普段しないような仕草とか行動とかもいいと思うわ、ただ恥ずかしがったら効果半減だから絶対にダメよ、でもまあ恥じらう先輩もたまらないのは事実よっていうか元々可愛いから何してたって良いんだけど――結論だけが破綻したアドバイスを、ルカは必死に実行へ移していった。  擦り寄るように頭を寄せて、唇でそっと髪を掻き分けて相手の耳を露出させ、ふっと息を吹きかけつつ掠めるように唇の先だけを触れさせる。  もちろんその間、胸をぐっと前に押し出すことも忘れない。 (……もしかしなくても、効いてる?)  相手はさっきからルカの方を振り向くこともなく、ただ黙って俯いている。  実はルカがここまで好き勝手できたのも相手の視線がなかった事が大きく関係していたのだが、成功どころか大成功の兆しを掴んだルカはそのことに全く気付かない。 (よーしっ、このまま一気に畳み掛けて――)  さらに大胆に相手を誘うべく、まずは耳たぶでも甘噛みしちゃおうかな! とさらに相手へ体重をかけたところで、 「ふぇっ――」  相手の顔付近にあったルカの手首が、ぱしんと叩かれた。……ように、ルカには思えた。  実際には突然手首を掴まれただけなのだが、突然の出来事はそれだけでは終わらなかった。  掴まれた手首を支点にしてルカの体が前方へと引っ張られ――さらに体重をかけていた背中が一気に沈む。 「わあっ!?」  気が付けば、ルカは前屈状態の相手の背中にべったりと貼り付くような形になってしまっていた。  起き上がろうにも両の手首はしっかりと掴まれていて、ルカの力では引き抜けそうにない。  動かせる箇所といったら、強制的に床に着かされてしまった膝から下ぐらいだ。 「ちょっ、ちょっとクロアっ……」 「……」 「ね、ねえっ、あの……は、離してってばっ」  反応のない相手に、ルカはなけなしの力で上半身を起こそうと努力してみた。  しかし、じたじたと横に揺れるので精一杯。すぐに力尽き、べたりと背中に突っ伏すしかない。 「……」 「クロアっ」 「……」 「……あの、ちょっと手首とか痛いんだけどっ……」  あまり言いたくはなかったのだが痛みを訴えてみると、わりとあっさり手首は解放された。ルカは急いで起き上がり、相手からさりげなく距離を取ってからぺたんと床にへたりこんだ。  その数秒後、距離を取った意味などほとんどなかったことを知ることになる。 「それで、ルカ」  ルカが顔を上げたすぐそこに、さっきからずっと「見えていなかった」相手の顔があった。 「っ、な、何? クロア」 「さっきのは何だったんだ?」 「べ、別に何もないよっ?」  立ち上がる隙も与えられず、思わず後ずさる。僅かな距離は、にじり寄る相手にあっさりと詰められた。 「へえ」 「う、うん……あの、クロア何で近づいてくるの、かなー……」 「さあ、何でだろうな?」 「ちょっ、す、ストップ、ストップー!!」  とうとう耐えきれなくなったルカは顔の前に両手を広げ、それ以上の接近をガードにかかる。  それが白旗も同然の行為だと理解した相手は、素直にそこで動きを止めた。 「だっ、だからっ、そのぅ……」 「その?」 「……わざとあててみせて意表を突いてっ、クロアの余裕を無くさせたいなーって、思って……」  恥ずかしさと本能的なものから目を瞑っていたルカには、相手がそっと眼鏡の位置をずらしたことを気付けるはずもない。  相手が何の感想も反応も返さなかったことに動転し、ルカはさらにしなくていい言い訳を叫んだ。 「こっこれならクロアも驚くって思ったのにー!」 「……あー、うんそうだな」  だいぶ棒読みっぽい声で呟きつつ、相手は再び眼鏡の位置を直した。直すフリをした手で、勝手に緩んだ口元を隠すために。 「それで、続きは?」 「つづっ……!? な、ないからそんなのっ」 「俺を驚かせたいんじゃなかったのか?」 「そ、そうだけどっ……も、もうクロアのばかーっ!」


 そうして敗北感に塗れながら相手の部屋を後にしたルカが思ったことは、お決まりのコンプレックス丸出しのたった一つの推論。 (やっぱり大きさが足りなかったからダメだったんだ……)  後日、その誤解も甚だしい敗因を克服し、リベンジに挑むルカがいたりいなかったりしたのだが、それはまた別の話である。


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 元ネタの中の人にそのポルナレフ的な流れは一体どういうことなのかをkwskしたら後半部の要約を提示されたので、勝手に空猫さんで前半部を追加したら無駄に長くなってしまったでござるの巻。(大いなる萌えをありがとうございました土下座!!!)


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