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日々是ダメ人間/雑記

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2008-02-11 新街の雑貨屋店主が金髪のゼロっさんにしか見えないのは私だけでいい

_ [ネタ文] play doctors(ロアルカ)

いつも通りED後ロアルカ。リハビリ中ですよ(私が)


 両手で箱を抱えながらも器用にドアを開ける。  同じく両手の塞がった少女を通すため、クロアは自らの体で閉じようとする扉を押さえた。 「ありがとっ」  微笑む少女に小さく頷いて、ドアから離れる。 「適当に置いてくれればいいから」  部屋の中央で足を止めている彼女にそう告げて、自らも手近な床に荷物を下ろした。そっと置いたつもりだったのだが、中からはがちゃん、とやや耳障りな音が聞こえてくる。  まさか割れてはいないだろうと思いつつ、手早く箱の封を解いた。箱の一番上にあった布――たぶん緩衝剤代わりだろう――を取り、中身を確認する。ざっと見た感じ被害はゼロだと判断して、少女の方を振り向いた。  彼女もさっさと封を開けてみたらしい。ただあちらの荷物は箱ではなく紙袋で、落としても割れないような品が詰めてある、という話だった。  視線に気付いたのか、袋から出したものを物色していた少女が感想を述べてくる。 「こっちはわりと普通の薬みたい。あとは処方箋」  細くてしなやかな指が摘んでいる書類には、確かにそれらしいことが書いてあるようだった。わかったと頷くと、彼女がぱたぱたと隣までやってきた。 「調合したのは全部こっちみたいだね」 「ああ。……それにしても」  彼女と一緒に覗き込んで、初めて気付いた事実があった。気付きたくなかったな、と彼はひとりごちる。 「薬と入浴剤だけならともかく、爆弾も一緒に詰めてあるのはどうかと思うんだが」 「……そういえば、静かに運んでねって言ってたね、スピカさん」  エナで薬局を営む店主から、そろそろ店を畳もうと思って、と告げられたのは数日前のこと。 「まあ、里帰りってところかしら」  どこか含みのある表情で理由を述べると、彼女は店の在庫について相談を持ちかけてきた。  全部は持ち帰れないので、好きな物を持っていって構わないというのである。  しかも、調合した商品は調合した本人が引き取るべきだ、とも。 「著作権とか後々面倒なのは嫌だし」 「この場合は特許権じゃないのか?」 「じゃあこのカップとソーサーあたりは意匠権が取れそうね」 「何にしても、誰もそんな権利を主張するつもりはないと思うんだが」 「今はそうでも、忘れた頃になって主張するパターンもありうるわ。それが一番厄介なのよ」 「しないと思うけどな……まあ、引き取れって言うなら引き取る」 「そう言ってもらえると助かるわ。じゃ、まとめておくから、近いうちに取りに来てね」  といったやりとりの結果、歌手業でエナ方面へ向かうルカの護衛のついでに、二人で引き取ってきたのである。 「まあ、タダでもらえるのは有難いけどな。……というか、この下全部爆弾か」  独特の形をした容器をいくつかどけてみると、箱の底にはみっしりと爆弾が詰められていた。  わりとそれっぽい形状のものと、ひどく異様な見た目のものの二種類が。 (……)  一気にツッコむ気力を削がれ、クロアは中のものを取り出す作業へ戻った。 「わ、レイカちゃんのハーブティーだ」 「知ってると思うけど、飲むとものすごく苦いからな、それ」 「カップとか本当綺麗なのにね。あっでもでも、そういうなんていうのかな、見た目とのギャップ? にときめいちゃう人ってわりと多いんじゃない? 確か、ツンデレとかってそういうことだよね」 「見た目と味が釣り合わないことにときめくのもどうかと思うけどな」 「そうかなあ。んー、空猫あたりならわかってくれると思うんだけど」 「ルカが言えばな」  割れやすい材質のものが多いため、一つ一つ丁寧に取り出していくとわりと時間がかかる。  ひとまず、隣のルカには姉妹が使いたいものだけを選別する作業に回ってもらうことにした。  残りは適当に箱に詰め直して騎士隊の詰め所にでも寄贈しよう――もちろん、入浴剤は除外するけどな――、そんなことを考えながら、クロアは爆弾以外の品を床に並べていく。 「これで全部、だな。ルカが必要なのはそれだけでいいのか?」 「うん。入浴剤と、薬と……あ、でもこれはクロアも必要だろうから、半分ずつね」 「助かる。ああルカ、こっちにも入浴剤が余ってる」 「あ、それは……そのぅ、いいの」 「いいって、いらないのか?」 「いるけど、……その、ここに置いといてもらったら、部屋まで取りに帰らなくてもいいかなー、なんて……」  何気に耳まで赤くして、ルカは俯いてしまった。  瞬間的な衝動はなかったことにしつつ――とりあえず合点はいったので、深く追求しないことにする。 「まあ、そういうことなら、わかった」  そそくさといくつかの入浴剤を端に寄せて、無言のまま振り分け作業を続けていく。  ――と。 「……ねえ、クロア」  きょとん、とした声色に、先程のことは気にしなくなったのだと悟る。内心ほっとしながらクロアは振り向いた。 「これ……」  ルカは置いてあった、緩衝材として入れられていた白い布を広げていた。  布だと思ったそれは実は衣服だったらしい。 「……白衣、だな」 「白衣だよね」  清潔そうな白さを主張するそれをじっと見つめていたルカが、首だけを振り返らせる。 「何で?」 「いや、俺に聞かれても」  思い返してみる。  イマイチ読み切れない、エナの薬屋を営んでいた女性。何と言っていたのだったか―― 「……そういえば、サービスで色々入れといたとか言ってたような」 「あ、うん言ってた言ってた。クロアくんにピッタリなものがあったから、とかなんとか」 「ピッタリとか言われてもな。普通にフリーサイズにしか見えないのは俺だけか?」  そんなクロアの呟きを無視したまま、ルカはそれをじっと見つめていた。その脳裏には妖艶な女性のにこにこした艶やかな笑み。そして言葉。 「クロア」 「ん?」 「せっかくだし、着てみてよ」 「いや、せっかくも何も……まあ、いいか」  ルカの瞳に不満そうな色が滲んだのを見て、クロアは渋々それを受け取った。  立ち上がって袖を通し、皺になった部分を伸ばして整える。 「これでいいのか?」 「……」  床にぺたんと座ったままのルカは彼を見上げたまま、何故か呆けたような表情で固まっていた。 「……ルカ?」  膝をついたクロアに顔を覗き込まれてようやく、我に返ったらしい。  驚いた拍子にか、ずざっ、と体を後ろに引いてすらいる。 「あ、え、えへへ、……スピカさん、グッジョブすぎー……」  ルカは照れ笑いのようなものを浮かべつつ、語尾をもごもごと濁した。 「え?」 「う、ううん! なんでもないなんでも! い、いいんじゃない?」 「何がいいのかよくわからないが……とはいえ、今後使う機会はなさそうだけどな」 「えー、勿体ないよぅ」  先程から不可解な言動を続けているルカを訝しく思うものの、気にしない方がいいだろうと彼の経験則が告げていた。  ため息をつかないよう努力しつつ、クロアは白衣を脱ぎにかかった。 「あっ、クロアちょーっとストップ! まだ脱いじゃダメー!」 「……まだ何かあるのか?」  仕方なく袖を抜きかけていたのを止めて、元に戻す。  するとルカの表情が満面の笑み――それも、にまにまと妙に嬉しそうな――ものに変わる。  理由はよくわからないが、少なくとも彼女は喜んでいるらしい。その事実に、クロアはルカが飽きるまで付き合おうと腹をくくった。ため息はもちろん、心の中だけで。 「なんかさ、そうやってるとクロアお医者さんみたいだよねっ」 「白衣一つでそう言われると、本物の医者に申し訳なくなってくるんだが」  思わず返してしまったツッコミにも、ルカは動じなかった。というか、既に聞いていないらしい。 「ねえねえクロア。ちょっとお医者さんっぽいこと言ってみてよ」 「医者っぽいことって……急に言われてもな」 「なんでもいいからっ。ねっ」  ともすればきらきらと輝きだしかねない期待の眼差しを受けてしまっては、クロアに断れるはずもない。  仕方なく脳内で「医者」をイメージしてみる。 (医者……そういえば、あまりかかったことはなかったな。大抵は応急処置で済ませてたし)  よほど酷い怪我であればチームのレーヴァテイルが回復魔法を使ってくれていた。旅の間でもそれは同じである。  なので、彼が医者に出向くのは「怪我」ではなく「病気」のときに限られ――そして彼はここ最近、病気らしい病気をしていなかった。 (前に医者にかかったのは……騎士になりたての頃、風邪にかかった時だったか?)  不注意で風邪をひいてしまった当時の彼は、自己管理のなっていない自分に反省しつつ、隊所属のレーヴァテイルが申し出た看病を断り、騎士隊の先輩から病院の場所だけを聞いた。  まだ慣れない街を一人で歩き、薬をもらいに行ったのは覚えている。 (熱でふらふらしてたから、いまいち記憶が……)  それでも朧気な記憶をたぐり寄せ、確かこんなのだったか、と文章を完成させてから、クロアは再び膝を折った。  ルカと目線の高さを合わせ、その瞳をじっと見つめて、口を開く。 「今日はどうしましたか」  クロアはひどく自然な動作で、ルカの額に手のひらを当てた。 「少し熱がありますね。どこか、痛いところはありますか?」 「――」  おや、とクロアは気付く。  右手越しに伝わる、さっきから微動だにしないルカの体温が、僅かに上がってきていることに。 「ルカ? 本当に熱があるのか?」  クロアは額から手を離して、代わりにそこにかかる前髪だけを持ち上げる。  そのまま、自分のそれをそこへと押し当てた。 「やっぱり少し熱――」 「っな、ないないっ!」  突然、ルカは力一杯両手を伸ばした。  手のひらは引き剥がした相手に触れたまま、しかし顔だけはそっぽを向いて、わたわたと続ける。  その顔が真っ赤であることが、露出した耳の赤さで知れた。 「熱とかはないからっ、ほんと、全然!」 「でも、顔赤いぞ」 「こ、これは、そのぅ……ち、違うの、そういうのじゃないのー!」 「ルカ。こっち向けって。もう一度ちゃんと測るから」 「い、いいから! ほんとに平気だからっ」  顔の前で腕をクロスにしてなんでもないと繰り返すルカを見ていると、もしかして悪いのは自分の方なのだろうか、という理不尽めいた疑念が湧いてくる。 「……」  クロアはルカにわかるよう小さなため息をついてから、詰め寄りかけていた体を引き戻した。  やがてルカも顔をかばっていた腕を下ろしたが、どうにも気まずい雰囲気が漂う。室内にはしばらく沈黙が続いた。  先に口を開いたのは、罪悪感めいた何かに耐えきれなくなった彼女の方だ。 「ご、ごめんね、クロア。心配してくれたのに……あの、でもほんとになんでもないから。えへへ、元気いっぱいだよっ」 「ならいいんだが……こっちこそ無理強いするみたいなことして、悪かった」 「ううん。……クロア」 「なんだ?」  白衣をまとった青年の、眼鏡越しの視線。  それはひどく優しく、彼女を捉えて離さない――離れたくないと思わせる――、彼女のためだけに向けられる瞳。 「……なんでもない」  だがしかし、どことなく嫌な予感を覚えて、ルカは喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
 それは珍しく、彼女の地雷が不発に終わった瞬間だったのだが――後日ふと思い出したようにそれを起爆させて大変な目に遭ったりした、というのはまた別の話である。


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 クロア(うぃず眼鏡)に白衣ってきっと似合うよねっていう話。うんそれだけ。それが言いたかっただけなんだってば。
 ところでルカたんが言おうとしたのは「なんかクロア(妙に似合いすぎてて)(主に「痛いところないか」と聞いてきたあたりが)変態さんみたい……」とかそんな感じのセリフだったのですが、言わせると長くなりすぎっつーかここに置けなくなるので自重したんだぜ。


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