2008-03-04 無限のカオスは嫌すぎると水樹奈々の歌を聞いて思う(……)
_ [ネタ文] unconscious attack つづき(ロアルカ)
色々あって気が付いたら続いていた。以下は微妙に下世話だったりえげつなかったりする描写を含んでいるかもしれません。
そろそろ寝ようかと思っていると、部屋の戸が叩かれた。決められた回数を、決められたリズムで刻む。 ドア一枚を隔てた先に居るのが誰なのかを理解して、疲労で重さを感じる思考が一気にクリアになる。急いで扉を開けると、驚いた――というか、どこかショックを受けたような表情のルカが、こちらを見上げていた。 「どうした、ルカ」 端的に問う。 こんな時間に彼女一人で訪ねてくるのだ。何かよほどのことがあったのか。 仮に何がしかの事件が起きていなかったのだとしても、彼女自身に何か問題が起きたのかもしれない。個人的にはそちらの方が気がかりだ。 ルカはどこかしょんぼりと俯いて、話がしたいと言ってきた。語尾に小さく付け加えられた、ちょっとだけでもいいからという言葉に、どうやら一時を争うような事態ではなさそうだ、と理解した。 いつもの明るさを伴っていない彼女は、肩を落としているせいもあるのだろうが、一回りぐらい小さく見える。 何よりも、ここ数日彼女と話もできていなかったし、顔すら遠目で見る程度だったのだ。 今すぐにでも腕の中に閉じ込めてしまいたいと思うことは、恋人として間違った衝動ではないように思えた。 とはいえ、今ここでそうするわけにはいかない。深夜であるとはいえ、誰かがこの一角にやってこない可能性はゼロではないのだから。 中に入るよう促す。頷いたルカを招き入れ、その体が室内に収まった瞬間、ノブを掴んで扉を閉じる。これでもう、彼女の姿は誰にも見られることはない。自分以外には。 その事実を認識した瞬間、勝手に体が動いていた。
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ルカはこちらに抱きついたまま離れようとしない。 そっとその背に腕を回してみると、ぴくりと反応があった。でもそれだけで、ルカは一向に動く気配がない。 ゆるく抱き締めながら腕の中の温もりを感じていると、ほんの少しだけ冷静になれた。 時刻は深夜。一応把握しているルカのスケジュールは、明日も明後日も過密である。 「……ルカ、そろそろ休んだ方がいい。明日も朝から会議だろう?」 「やだ」 間髪入れず答えが返る。 これは単に意固地になっているのではないか、と経験則が告げてくる。理由はわからないが、ルカ的に今更引けない何かがあるのだろう。おそらくは。 (……) ため息に聞こえないよう、静かに息を吐き出してから、細い腰に置いていた手を滑らせる。 曲げていた肘を伸ばしていくと、手の位置は自然と下方へ降りていって、ちょうどルカの丸みを帯びたラインに辿り着いた。 「っ!」 びく、とルカの体が震えた。構わずに両手の中にその丸さを収めるようにして、撫でる。 ルカの腕に力が入り、しがみつくように、こちらの胸へ顔を押し付けてくる。それもやがて徐々に力が抜けて、息を殺すような微かな呼気音と、僅かな体の震えへと変わっていった。 おもむろに手の位置をさらに下げてみる。 そこは既にスカートの内側で、素肌ともスカートとも違う生地へ指先を這わせていく。途中、生地と肌との間へ潜らせて触れた瞬間、 「っや、やだっ……!」 悲鳴をあげたルカが身をよじり、突っ張った腕でこちらを力一杯押し返した。その気になれば簡単に阻止することもできたのだが、あえて何もしないでおく。 だん、と反動でドアに背を打ち付けたルカが呆然と呟いた。 「あ……」 いわゆる加害者なのはこちらであって、ルカは被害者だ。なのに、ルカの方が罪悪感に満ちた表情をしている。 そんな顔をすることはないのに。むしろ罵倒されたり頬を叩かれたって文句は言えない。仮に恋人同士だとしても、あれがあまりにも不躾な行為であったことは自覚している。わかっていて、その上でやったのだから。 こうでもしないと部屋に戻ってくれそうにないと思ったのだ。こちらの心象が急下降することより、ルカの体調の方が大事だ。よく見れば、ルカの目元にはうっすらとくまができている。化粧で誤魔化しているであろうそれは、つまり多忙の中で無理をしているという証明に他ならない。よって、一分でも早く部屋に帰して休ませなければ。 ……まあもちろん、こちらも健康な成人男子であり、しかもここ数日話もまともにできていなかった色々ご無沙汰気味の恋人相手に、先程のシチュエーションで何もするなという方が無茶とも言える。こちらとしても、そんな忍耐勝負をするぐらいなら体を休めておきたかった。 「あの、違うのクロア。ちょっと……その、びっくりしちゃっただけで」 「ルカ」 愛しいその名をしっかりと発音してやると、あたふたと忙しなく動くルカの視線が、ゆっくりとこちらを向いた。 「まだここに居るっていうなら、さすがに俺も何もしないでいるって保証はないし」 ルカの顔にさっと赤味がさした。 軽く俯きがちに目を逸らす様は、やはりすぐにでも腕の中に閉じ込めてしまいたくなるほど、凶悪な愛らしさを誇っている。 そうして、だから早く部屋に戻って休め――そう続けるはずだった言葉は、永遠に失われることとなる。 「い、……いいよ」 瞬間的に言葉を失ったこちらへ、ルカはきっと顔を上げた。 「で、でもっ、す……するなら、ちゃんと……」 真っ赤になりながら、もごもごと尻すぼみになっていく言葉。 それを聞き終わらないうちに、やはり勝手に体が動いていた。
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「あの、クロア」 「ん?」 こちらの顔を見やすいようにか、腕枕をしている相手がもぞりと動いた。 同じようにこちらも姿勢を横へと向けて、その行為を助ける。 顔にかかっていた髪の毛をそっとかきあげてやると、ルカはうっとりと目を閉じた。そして、開いた瞳は何故か切なそうな色を伴っていて、僅かに潤みさえしている。 ルカの唇が小さく動いたが、言葉にはならなかった。何か言いたそうなルカを促すように、もう一度髪をかきあげ、指先で梳いてやる。 繰り返しそれを続けていき、こちらの手が離れた瞬間、ルカはぽすん、とこちらの肩口に顔を埋めてきた。 見えている後頭部に触れてそっと撫でていると、ぼそぼそ、と声が聞こえた。手を止め、耳をそばだててみる。 「……ずっと、クロアのことひとりじめできたらいいのに」 一瞬、息をするのを忘れてしまった。 それは――ルカ、それは。 「俺もルカのこと、ずっとひとりじめしていたいよ」 声音に冷静さを装わせて、心からの本音を口にする。 「ほんとに?」 勢いよくあがった顔は、半信半疑、といった風だった。それはむしろこちらのセリフ、というか表情なのだが――とりあえず、強引に笑みを形作っておいた。 まあ嬉しいのは事実で、もっと言うと大声で笑ってしまいたいぐらいだったりもする。が、それをやると頭がおかしいと思われても仕方ないし、何より今は、大声で騒いでいい時間では断じてない。 「ああ。……できることなら、そうしたいな。本当に」 しみじみと呟くと、ルカは小さく顔をほころばせて、うん、と頷いてくれた。 「……そうできたら、いいのに」 擦り寄るようにして、再び右肩のあたりへ顔を埋めてくるルカ。 ともすれば暴発させてしまいそうな感情をどうにか宥めて、それでもおさまらないものをおやすみのキスで相殺しようと手を伸ばして――穏やかな寝息に気が付いた。 「……」 宙に浮かせたままの手をぐっと握り込んで、ゆっくりと息を吐き出す。それはため息ではなかったはずだ。たぶん。 毛布をしっかりと引き寄せ、起こさないようにそっとルカを抱えなおしてから、目を閉じる。 明日は少しばかり早起きをしなければならない。人がまだ起き出さないうちにルカを部屋へ帰しておかないと、後がどうなるかわかったものではなかった。 よって、寝れて二時間がいいところだろう。 それは今日一日の疲労を回復するには少なすぎる睡眠時間だったが、互いの思うところが同じであったという事実の前には、ひどく些細な問題のように思えた。もう数日ぐらい不眠不休でもやっていけそうな気さえする。誇張ではなく、実際にやれそうなのが我ながら恐ろしい。 だがそれほどに、心が満たされてしまったのだ。どうしようもないくらい自分はルカが好きで、ルカも自分を好きでいてくれる、そんな夢のような現実を知ってしまったから。 閉じていても寝付けそうにない目を開け、腕の中で眠るルカに唇で触れる。 あまり身動きが取れないため、唇で感じたのは頬でも額でもなくつややかな髪の毛であったが、おやすみのキスには違いないだろう。 (おやすみ、ルカ) 心中で囁いてようやく、下ろした瞼をそのままにしておく気になれた。
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ダイジェスト気味なのは気のせいです。気のせいなんだったら。